『カラフル』
カラフルな傘が泳いでいる。
——餌はいったい、何なのだろうか。
○○○
とある雨の日。
私は陸橋の上で、ふと立ち止まった。
横を見ると、色とりどりの傘を持った人たちが、道を歩いている。
雨の中、行き交う姿に、まるでカラフルな傘が泳いでいるようだ、と私は思った。
「なぁ、君。みろよ。カラフルな傘が、まるで鯉のように泳いでいるぜ。彼らの餌はなんだと思う?」
私がそういうと、隣に居た少年が嫌そうな顔で口を開いた。
「……先生、またいつものですか」
「そうさ、またいつもの私だ」
もう、何十回と、同じようなやり取りを彼とはしている。
少し考えた彼が、口を開く。
「情報、ですかね」
「……ほう、情報ねぇ。その心は?」
彼はすごく冷めた目で、下を流れる傘を……人々を見ていた。
「だって、みんな噂が好きじゃないですか。それが、本物であろうと偽物であろうと構わない。面白ければ、それで」
「ふぅん」
「それに、人の噂も七十五日って言うでしょう。つまりは、そこで噂をエサのように消化しきって、次のエサを求めに行ったんですよ」
「あぁ、そうかい。君の意見は面白いね」
私がケラケラ笑うと、彼はもっと嫌そうに顔を歪めた。
「先生は、彼らの餌はなんだと思うのですか」
「ないよ」
「…………は?」
「だから、無いって言ったんだ」
彼が不機嫌そうに口をひん曲げた。目が吊り上がって、メラメラと燃える。
「ねぇ、先生。先生が言ったんですよ、餌は何かって。それなのに、自分では言わないって言うのは、卑怯なんじゃないですかね!」
彼のあまりの怒り具合に、私は首を竦めた。お手上げだ、これ以上揶揄うのは、よそう。私は口を開く。
「もっと正確に言うと、食べられないのさ」
「……は?」
「君。まだ、気づいて無かったのかい? ——下にいる彼らはみんな、死人だよ。ほら、祓い屋の仕事だ、はじめようか」
おわり
『楽園』
生きていれば、地獄。
ならば、死ねば楽園なのか。
——笑ったり、泣いたりすることが幸せですか?
○○○
死ねば、何もない。
辛いことも苦しいことも。
楽しいことも、面白いことも。
生きていれば、色んなことがある。
笑ったり、泣いたり。
嬉しい事や楽しい事、幸せだと感じられることは“生きていなければ”感じる事が出来ない。
……ならば、ならば。
生きている現世が地獄なら、
死んだあとに迎える世界が楽園ならば。
楽園とは、死後の世界とは、地獄でない場所というのは、
笑ったり、泣いたり出来ない世界ということならば。
……笑ったり、泣いたりすることが幸せである人にとって、『幸せになれない場所(地獄又は楽園)』であるのだろうか。
…………。
もしも、もしも。
あなたが、笑ったり、泣いたりすることに幸せを感じる人間であるのだとしたら。
笑ったり、泣いたり出来ないことを、嫌だと感じる人間であるのだとしたら。
この地獄こそが、
——あなたにとって唯一の楽園なのだと。
わたしは思う。
——どうぞ、楽園を楽しんで。
笑って、泣いて、怒って、苦しんで、寂しさを感じて、和んで、癒やされて、絶望して、浮かれて、発狂して、恋をして、恨んで、優越に浸って、嫉妬して、自慢して、
最期まで、おしあわせに。
お成りなさいな……。
おわり
『風に乗って』
風に乗って、便りがやってくる。
春から夏へと季節の変わりが、やってくる。
甘くふわりと香る桜は散りゆく、
青く瑞々しい太陽の香りが迎える。
朝から昼へと、
時間が過ぎ行くように、季節は流れていく。
風に乗って、わたしは季節を知る。
——あぁ、もうすぐ夏が来るのだ。
……そして、寝過ごして真っ暗な空を見ながら途方に暮れるのだ。
「やっべえ、休日一日寝て過ごしちゃったよ……どこにも行けねぇ」
おわり
『善悪』
善悪の区別とは、どこでつけるものなのだろうか。
「ほら、また一人。悪人がこの世から消えたよ」
「……彼は、何をしたんだい?」
「入ってはいけないと言われる場所に入ったんだ」
「……それは、どうして?」
「なんでも、子猫が雨で震えて死にそうだったから、それを助けたかったそうだよ」
「……じゃあ、彼は悪人じゃなくて善人なんじゃないかな」
「でも、彼は入ってはいけないと言われた場所に入るという罪を犯したんだ。だから、彼は悪人だよ。どんなに良いことの為だとしても、それはルールを破っていい訳じゃないからね」
「……そうか」
善悪の区別とは、どこでつけるものなのだろうか。
——あなただったら、子猫を助けますか?
おわり
『流れ星に願いを』
「流れ星に願いを言うなら、なんてお願いする?」
「そんなの【ずっと流れ星が続きますように】だろ」
「!? 君は天才か!?」
……天才っていうより、天災だろうけどな。
おわり