『もっと知りたい』
君の事がもっと知りたい、ただそれだけだった。
どんな花が好きなのだろう。
どんな動物が好きなのだろう。
どんな物を食べているのだろう。
知りたい、知りたい、知りたい。
君の事なら、どんどん詳しくなっていった。
朝起きたときに寝癖が右寄りに出来ること。
実はグリンピースが苦手なこと。
駅でいつもお婆さんに席を譲ってること。
女子の集まりで恋話したときに恥ずかしそうに頬を染めること。
全部、全部、全部。
僕は君の事を知ってるよ。
「でも、これは知らなかったでしょう?」
暗転。
そして次に目覚めたとき、そこは知らない天井だった。
「ーー」
あれ、ここは?
そういったつもりが、くぐもったうめき声しか出なかった。
不安になって体を起こそうとするも動かない。
そこで気がつく。
今、自分は見知らぬ部屋で、硬い机のような物の上で口ごと拘束されて動けなくされているのだ、と。
一気にパニックになりながら、足と手を必死に動かし暴れようとするが、拘束が固く全くビクともしない。
血の気が引いて真っ青になる中、クスリと音が聞こえた。
……あの子の笑い声だ。
チラリとそちらを見ると、あの子が僕の方を向いて微笑んでいた。
…………何故?
「ねぇ、好きな人のことって、もっと知りたいって思わない?」
頬を染めて、まるで初心な乙女のように近づいてくる彼女。
だけど僕は、ますます顔を蒼くして必死にもがく。
……彼女が大きな刃物を片手に持っていたからだ。
「あなたの内臓の色は、どんな色をしているのかしら」
『私、もっと知りたいわ』
その言葉と共に激痛が僕の身に走り、意識が暗転した。
最期に思ったことは、ただ一つ。
好奇心は猫を殺す。
あぁ、好きだからといって、何でも知ろうとした罰なのだ。
もし次に来世があったとしたら、次は絶対に好きな人のストーカーなんてしない。
——僕は心に固くそう誓った。
おわり
『平穏な日常』
平穏な日常とやらは、砂糖菓子のように崩れさった。
脆く儚く、刹那の甘さを残して……それはやってきた。
——塩の塊で出来た塩星人の侵略である。
○○○
ことの始まりは、こんなだった。
食べたケーキに塩が混じっている。
砂糖と塩の入れ間違い、か?
だが、それが国中、いや世界中で一斉に起こったらどうだろう。
そう、そして発覚したのだ。
この世のすべての砂糖が、塩に変わっている異変に。
この異変の理由の特定は、難しかった。
なんせ前兆は無かったし、世界規模。しかも、意味が分からない。
神の怒りだとか、人間の味覚が進化したとか、大規模の愉快犯的なテロでは? とか色々言われ……最終的に、辿り着いたのは塩星人の発見である。
塩星人。
それは、塩に混じった、極々小さな生命体である。
……正直、見た目は塩と大差ない。
だが、彼は塩と違い、砂糖を塩にしてしまうという厄介な特性を持っていた。意図しているわけでなく、人間が呼吸をして酸素を二酸化炭素にして吐き出すような無意識の特性らしい。
しかも、喋るのだ。この塩星人は。
人間よりも優秀な頭脳を持った彼らは、喋っている我らの言語を理解し、我らと同じ言語で話し出した。
曰く、生まれ育った故郷が隕石により消滅したため、新しい終の住処を探し求めて地球に辿り着いた、らしい。
『ただ、平穏な日常をおくりたいのです』
そう訴えてきた彼らの発言は切に迫るものがあった。
が、甘い物を求める者の声も、また切に迫るものがあった。
『甘い物が無いと死んでしまう……ムリ』
平穏な日常をかけた、お互いに譲れないもの。
あわや、一触即発の戦争か。
そんなときに一人の主婦が解決法を編み出した。
「塩と砂糖を2メートル離しておけば、砂糖は塩に変わらないわ」
SNSで100万バズったその投稿により、世界は平和になった。
我々は、両者とも平穏な日常を取り戻したのだ。
——平穏な日常のなんと有り難いことよ。
『マヨネーズが全部ケチャップになってる』
そんなコメントを見るまでは。
おわり
『愛と平和』
「愛と平和って何だと思う?」
「猫だろ」
「猫……」
この世界の愛と平和は、どうやら猫が握っているらしい。
おわり
『過ぎ去った日々』
過ぎ去った日々に手を振ってお別れしよう。
集めた思い出の紙束に、火を付けて燃やした。
これは荼毘だ。
「大学受験のための勉強用紙、さようなら」
「そして大学のレポート、こんにちは」
未来の事は今は考えず、とりあえず過去の研鑽を燃やして美味しい焼き芋を食べる事にした。
…………おいしい。
よし、明日の大学デビューも頑張ろう!!
焚き火からチラリと見えた、初期の頃の赤点の紙が見え、私はクスリと笑った。
きっとどんな困難があっても、やっていける。
おわり
『お金より大事なもの』
それは、睡眠。
二度寝します、おやすみなさい。