『平穏な日常』
平穏な日常とやらは、砂糖菓子のように崩れさった。
脆く儚く、刹那の甘さを残して……それはやってきた。
——塩の塊で出来た塩星人の侵略である。
○○○
ことの始まりは、こんなだった。
食べたケーキに塩が混じっている。
砂糖と塩の入れ間違い、か?
だが、それが国中、いや世界中で一斉に起こったらどうだろう。
そう、そして発覚したのだ。
この世のすべての砂糖が、塩に変わっている異変に。
この異変の理由の特定は、難しかった。
なんせ前兆は無かったし、世界規模。しかも、意味が分からない。
神の怒りだとか、人間の味覚が進化したとか、大規模の愉快犯的なテロでは? とか色々言われ……最終的に、辿り着いたのは塩星人の発見である。
塩星人。
それは、塩に混じった、極々小さな生命体である。
……正直、見た目は塩と大差ない。
だが、彼は塩と違い、砂糖を塩にしてしまうという厄介な特性を持っていた。意図しているわけでなく、人間が呼吸をして酸素を二酸化炭素にして吐き出すような無意識の特性らしい。
しかも、喋るのだ。この塩星人は。
人間よりも優秀な頭脳を持った彼らは、喋っている我らの言語を理解し、我らと同じ言語で話し出した。
曰く、生まれ育った故郷が隕石により消滅したため、新しい終の住処を探し求めて地球に辿り着いた、らしい。
『ただ、平穏な日常をおくりたいのです』
そう訴えてきた彼らの発言は切に迫るものがあった。
が、甘い物を求める者の声も、また切に迫るものがあった。
『甘い物が無いと死んでしまう……ムリ』
平穏な日常をかけた、お互いに譲れないもの。
あわや、一触即発の戦争か。
そんなときに一人の主婦が解決法を編み出した。
「塩と砂糖を2メートル離しておけば、砂糖は塩に変わらないわ」
SNSで100万バズったその投稿により、世界は平和になった。
我々は、両者とも平穏な日常を取り戻したのだ。
——平穏な日常のなんと有り難いことよ。
『マヨネーズが全部ケチャップになってる』
そんなコメントを見るまでは。
おわり
3/12/2026, 9:18:18 AM