『もっと知りたい』
君の事がもっと知りたい、ただそれだけだった。
どんな花が好きなのだろう。
どんな動物が好きなのだろう。
どんな物を食べているのだろう。
知りたい、知りたい、知りたい。
君の事なら、どんどん詳しくなっていった。
朝起きたときに寝癖が右寄りに出来ること。
実はグリンピースが苦手なこと。
駅でいつもお婆さんに席を譲ってること。
女子の集まりで恋話したときに恥ずかしそうに頬を染めること。
全部、全部、全部。
僕は君の事を知ってるよ。
「でも、これは知らなかったでしょう?」
暗転。
そして次に目覚めたとき、そこは知らない天井だった。
「ーー」
あれ、ここは?
そういったつもりが、くぐもったうめき声しか出なかった。
不安になって体を起こそうとするも動かない。
そこで気がつく。
今、自分は見知らぬ部屋で、硬い机のような物の上で口ごと拘束されて動けなくされているのだ、と。
一気にパニックになりながら、足と手を必死に動かし暴れようとするが、拘束が固く全くビクともしない。
血の気が引いて真っ青になる中、クスリと音が聞こえた。
……あの子の笑い声だ。
チラリとそちらを見ると、あの子が僕の方を向いて微笑んでいた。
…………何故?
「ねぇ、好きな人のことって、もっと知りたいって思わない?」
頬を染めて、まるで初心な乙女のように近づいてくる彼女。
だけど僕は、ますます顔を蒼くして必死にもがく。
……彼女が大きな刃物を片手に持っていたからだ。
「あなたの内臓の色は、どんな色をしているのかしら」
『私、もっと知りたいわ』
その言葉と共に激痛が僕の身に走り、意識が暗転した。
最期に思ったことは、ただ一つ。
好奇心は猫を殺す。
あぁ、好きだからといって、何でも知ろうとした罰なのだ。
もし次に来世があったとしたら、次は絶対に好きな人のストーカーなんてしない。
——僕は心に固くそう誓った。
おわり
3/13/2026, 2:18:51 AM