夏の気配
君にずっと憧れて。
君の背中を追ってきた。
友達として、
ライバルとして、
君と並びたくて。
でも。
どんなに足掻いても。
君との距離は遠くなるばかり。
なのに。
君への想いは強くなる。
君への想いを隠して。
せめて友達として、
君の側に居たかった。
君の背中は遠くなる。
影の黒さが強くなる。
胸の軋みを誤魔化し、
痛みから逃げるように、
天を仰ぐと、
空は悲しい程に、
青くて、高くて。
太陽の眩しさに、
目が眩む。
その衝撃に耐えられず、
俺の心は闇に潜る。
そこかしこに広がる、
夏の気配から逃げるように、
現実から目を背け、
何も気付かなかった振りをして、
影に息を潜めるんだ。
まだ見ぬ世界へ!
最後の声
貴方は、どうして、
こんな醜い世の中で、
傷付き、苦しみながら、
生きようとするのですか?
世の中から弾き出され、
人として生きる事が出来ずにいた、
傷だらけの私に、
救いの手を差し伸べ、
私を人間にしてくれた、貴方。
そんな貴方は、
私の全てとなったのです。
貴方の為なら、私は、
悪魔に刃を向け、
天使を殺める事さえ、
躊躇わないでしょう。
しかし。
残酷な人間ばかりが蔓延る、
現し世に生きていくには、
貴方は優し過ぎたのです。
ですから。貴方に、
永遠の安寧を与えましょう。
この世に別れを告げ、
私と共に彼方へ行き、
永遠を生きましょう。
貴方の魂を救う為に、
貴方の身体に、
銀色に輝く刃を沈めます。
貴方の呼吸は小さくなり、
鼓動は緩やかに止まります。
貴方の口唇が、
言の葉を紡ごうと、
小さく動きます。
貴方から溢れる最後の声は、
私への愛の言葉である事を、
願いながら、
私は貴方に微笑み掛け、
この世に別れを告げます。
小さな愛
幼い頃は、
ずっと君と一緒にいた。
嬉しいことも、楽しいことも、
一緒に体験して、
辛いことも、悲しいことも、
一緒に乗り越えて。
泣き虫だった君を護ろうと、
繋いだ君の手は、
少しずつ、大きくなって。
気が付けば、君は、
すっかり大人になって。
君の隣には、
俺の知らない男がいた。
ずっと子供の頃のままの俺。
すっかり大人になった君。
兄弟の様に一緒にいた、
柔らかい二人の時間は、
セピア色の記憶の彼方。
子供の頃のように、
ずっと君を護りたかった。
そのことに、
漸く気が付いたけど、
もう、戻れない。
せめて。兄として、
君の幸せを見守りたいから。
君を奪いたい衝動を、
心の泉の底に沈めて、
大人の振りをして、
君に微笑み掛けるんだ。
それでも、
どうしても、忘れられない。
小さかった君の手のひら。
優しい温もり。
そして、小さな愛。