雨の香り、涙の跡
糸
絡まってしまった糸。
綺麗に巻いていた筈なのに、
なのに、気が付けば、
複雑に絡まりあってた。
そう。この絡み合う糸は、
まるで貴方と私の様に、
解こうとすれば、
かえって、絡み合って、
解けなくて。
貴方を傷付ける心算なんか、
無かった。
謝れば、逆に怒らせ、
沈黙を貫けば、
貴方は一人離れていく。
絡み合う糸を、
元に戻したくて。
私は、結び目に爪を食い込ませ、
解そうと、力を掛ける。
突然。
ぷつり、と、
糸が切れる音がした。
切れてしまうくらいなら、
絡まったままの方が、
良かった。
切れてしまったら、
もう二度と、
綺麗に繫がることは、
ないんだから。
そう。
貴方と私は、
離れ離れになる運命。
そう言われたみたいで、
胸が、鋭く痛む。
引き合う糸。
絡まり合う糸。
切れてしまった糸。
解れた不均一な断面。
それが、私の未練みたいで、
情けなくなる。
もう。
私と貴方が紡ぐ物語の糸は、
終わりなんだ、と、
受け入れられたら、
楽なのに、ね。
届かないのに
マグカップ
ずっとずっと、片思い。
そんな事、
初めから分かってたのに。
たまの休日。
一人、街を彷徨い、
孤独な心を誤魔化すように、
飛び込んだカフェ。
虚ろな気持ちを隠して、
カフェラテなんか注文して。
充実した休日を、演出してみる。
マグカップの上には、
カフェラテに描かれた、
今の俺には、余りに似合わない、
ハート柄のラテアート。
見なかった振りをして、
褐色の湖面に浮かぶ、
恋の象徴を崩すように、
カフェラテを口にする。
マグカップの、
少し柔らかい口触り。
エスプレッソの鋭い苦みと、
フォームミルクの偽善な柔らかさが、
俺の心を掻き乱す。
今頃、先輩は、
華奢なティーカップに淹れられた、
香り高い真紅の紅茶を手に、
恋人と語り合って居るんだろう。
口触りも繊細な、
ティーカップとは違って、
マグカップは無骨だけど。
孤独に震える俺の心を、
そっと受け止めてくれる。
そんな気がして。
静かにマグカップを、
両の手で包み込む。
マグカップ越しに伝わる温もりが、
傷付いた俺の心を、
ほんの少しだけ、
癒やしてくれた気がした。