霜月 朔(創作)

Open App
9/23/2024, 6:10:45 PM

ジャングルジム


何もかも、上手く行かなくて、
全部、嫌になっちゃった時は、
庭の片隅にある、
大きな木に登るんだ。

大人になって、木登りなんて、
誰もやらないから。
此処はボクだけの、
秘密の場所。

公園で遊ぶ子供達が、
ジャングルジムに登る様に、
ボクは、慣れた身の熟しで、
木に登っていく。

高い木の上から見ると、
嫌になった事なんか、
ちっぽけに思えて。
少しだけ元気になれるから。

そして、ボクの足元には。
突然姿を消したボクを、
心配そうに探してる…アイツの姿。

一番早く、ジャングルジムの
一番上迄登った子供の様な、
不思議な優越感に浸って。
ボクは、木の上から、
ボクを探す、アイツを眺めて、
こっそり微笑むんだ。

9/22/2024, 5:28:39 PM

声が聞こえる


俺は地に伏した。
…もう、駄目だ。
身体に力が入らない。

こんな残酷な世の中で、
今日迄、野垂れ死ななかったのは、
単に、幸運だったに過ぎない。

俺は、目を閉じた。
大きく息を吐く。

この世に執着は、無い。
こんな世の中、
生きていたって、
苦しいだけ、だ。

声が聞こえる。
彼奴が…俺を呼んでいる。

彼奴がいたから、
こんな酷い世の中で、
俺は何とか正気で居られた。

俺は、此処で、
諦める訳にはいかない。

声が聞こえる。
大切な彼奴の声が。

俺は答える。
…直ぐに、帰る。
心配するな。

俺は、目を開けた。
そして。
残された力を振り絞り、
再び立ち上がろうと、
足掻き始めた。

9/21/2024, 6:15:15 PM

秋恋



少しだけ、涼しくなった風が、
庭に咲いている、
秋桜の花を、
そよそよと揺らす。

薄紅色の秋桜。
可憐で何処か華奢な、
その姿に、秋を想う。

夏が終わり、
秋がやってくる。
秋の空。秋恋。
行き場を失った、私の恋心。

花言葉に私の想いを託して、
忘れられない、想い出の彼に、
黒い秋桜を贈ろうかな。

黒い秋桜の花言葉は…。
『移り変わらぬ気持ち』

例え貴方が、
私を忘れてしまっても、
私はまだ…。
貴方を、愛してるんだ。

9/20/2024, 7:04:11 PM

大事にしたい



私は、生きる為に、
罪を重ねてきました。

しかし恐らく、人は私を、
罪人とは呼ばないでしょう。
誰しも生きる為に、
牛や豚、鶏や魚、そして植物等。
様々な生命を、喰らっていながら、
それを罪とは言わない様に。

ですが。
私の手は、血に塗れ、
私の魂は、穢れています。

こんな私が。
貴方に惹かれてしまったのです。
どんなに不遇な環境でも、
どんなに他人に虐められても、
太陽の様に輝く魂を失わない、
そんな貴方に。

こんな汚れきった私が、
貴方に触れる事は、
赦されない事は、
分かっている心算です。

ですから。
私の願いは、一つ。
貴方の美しい魂を、
大事にしたい。
只、それだけです。

9/19/2024, 5:32:34 PM

時間よ止まれ


夜の帳が降りて、
皆が寝静まる時間。
それは、私と貴方が
仮初めの恋人になる、
魔法が掛かる時。

貴方は私に、
優しく微笑んで、
愛の言葉を紡ぐから。
私は貴方に、
そっと口付けて、
愛の言葉を返すんだ。

愛しい貴方が、
今は、私の腕の中にいる。
だけど。
時間よ止まれ、と、
私がどんなに願っても。
それは叶わぬ夢。

貴方は、夜明けと共に、
私の元から去り、
独りきりの部屋に戻って、
何時戻るとも知れない、
貴方の本当の恋人の、
帰りを待つのだろう。

貴方が居なくなった部屋で。
私は、独りきり。
貴方が残した僅かな温もりを、
そっと抱いて、眠ろう。

Next