声が聞こえる
俺は地に伏した。
…もう、駄目だ。
身体に力が入らない。
こんな残酷な世の中で、
今日迄、野垂れ死ななかったのは、
単に、幸運だったに過ぎない。
俺は、目を閉じた。
大きく息を吐く。
この世に執着は、無い。
こんな世の中、
生きていたって、
苦しいだけ、だ。
声が聞こえる。
彼奴が…俺を呼んでいる。
彼奴がいたから、
こんな酷い世の中で、
俺は何とか正気で居られた。
俺は、此処で、
諦める訳にはいかない。
声が聞こえる。
大切な彼奴の声が。
俺は答える。
…直ぐに、帰る。
心配するな。
俺は、目を開けた。
そして。
残された力を振り絞り、
再び立ち上がろうと、
足掻き始めた。
秋恋
少しだけ、涼しくなった風が、
庭に咲いている、
秋桜の花を、
そよそよと揺らす。
薄紅色の秋桜。
可憐で何処か華奢な、
その姿に、秋を想う。
夏が終わり、
秋がやってくる。
秋の空。秋恋。
行き場を失った、私の恋心。
花言葉に私の想いを託して、
忘れられない、想い出の彼に、
黒い秋桜を贈ろうかな。
黒い秋桜の花言葉は…。
『移り変わらぬ気持ち』
例え貴方が、
私を忘れてしまっても、
私はまだ…。
貴方を、愛してるんだ。
大事にしたい
私は、生きる為に、
罪を重ねてきました。
しかし恐らく、人は私を、
罪人とは呼ばないでしょう。
誰しも生きる為に、
牛や豚、鶏や魚、そして植物等。
様々な生命を、喰らっていながら、
それを罪とは言わない様に。
ですが。
私の手は、血に塗れ、
私の魂は、穢れています。
こんな私が。
貴方に惹かれてしまったのです。
どんなに不遇な環境でも、
どんなに他人に虐められても、
太陽の様に輝く魂を失わない、
そんな貴方に。
こんな汚れきった私が、
貴方に触れる事は、
赦されない事は、
分かっている心算です。
ですから。
私の願いは、一つ。
貴方の美しい魂を、
大事にしたい。
只、それだけです。
時間よ止まれ
夜の帳が降りて、
皆が寝静まる時間。
それは、私と貴方が
仮初めの恋人になる、
魔法が掛かる時。
貴方は私に、
優しく微笑んで、
愛の言葉を紡ぐから。
私は貴方に、
そっと口付けて、
愛の言葉を返すんだ。
愛しい貴方が、
今は、私の腕の中にいる。
だけど。
時間よ止まれ、と、
私がどんなに願っても。
それは叶わぬ夢。
貴方は、夜明けと共に、
私の元から去り、
独りきりの部屋に戻って、
何時戻るとも知れない、
貴方の本当の恋人の、
帰りを待つのだろう。
貴方が居なくなった部屋で。
私は、独りきり。
貴方が残した僅かな温もりを、
そっと抱いて、眠ろう。
夜景
静かな夜。
街の外れの高台から、
街を眺めます。
普段は、何処も彼処も汚くて、
醜い人間の欲望渦巻く、
私の住む街も、
今だけは美しく見えます。
夜景が綺麗なのは、
人々が灯す灯りが、
あるからだと思うよ。
何度、他人に傷付けられても、
人間という存在を、
信じ続けている貴方は、
夜景にさえ、人間の営みを、
感じるのでしょう。
嫌なものを全て隠す、
宵闇と家々の灯りが、
美しくて哀しくて。
私は、涙を隠して、
そっと貴方に寄り添います。
こんな不完全な私を、
そっと抱き寄せて下さった、
貴方の温もりが、
眼の前の夜景を、
より美しいものに、
変えてくれました。
また、貴方と二人で、
美しい夜景を眺めたいです。
今度は、何処か遠い旅先の、
夜景を眺めるのも、
悪くないですよね。