貝殻
ある地方では、
蛤は良縁を願う縁起物、だそうだ。
蛤の貝殻は、
対になってるもの以外とは、
ぴたりと合わないから…。
そんな理由らしい。
幸せを願う、貝殻。
なんかロマンチックじゃないか。
そんな事を思いつつ。
だけど、俺は。
蛤じゃなくて、鮑だな。
俺の事なんか、
全然気に留めてくれない、
彼奴の背を眺めて、
溜息を吐く。
…磯の鮑の片思い。
鮑は、ああ見えて、
巻き貝だから、
対になる貝殻は、ないんだとさ。
きらめき
私はずっと、
絶望の中にいます。
血に塗れた手。
穢れた魂。
赦されない罪。
それは。
私が背負い続ける、
重たい重たい十字架。
死を選べるのなら、
どんなに、楽でしょう。
生きて行くことが、
唯一の贖罪ならば。
私は、どんなに辛くとも、
生きて行かねばならないのです。
絶望の中にあって。
それでも見付けた、
唯一の希望。
生命の煌めき。
貴方は、私の、
希望の煌めきなのです。
何も望みはしません。
こんなに罪深い私ですが、
其処に存在する貴方を、
見守る事が出来るなら。
…それが私の幸せです。
些細なことでも
お前は心から俺を、
信用してくれている。
仕事上のトラブルは、
真っ先に俺に報告してくれるし、
職場内で見つかった問題も、
俺に必ず相談してくれる。
同僚同士のいざこざも、
直ぐに俺に教えてくれる。
だが。
トラブルや悩み事が、
お前のプライベートの問題の時は、
お前は酷く遠慮して、
俺に中々打ち明けてくれない。
俺は、お前の力になりたい。
どんな、些細なことでも。
何時でも、俺は、
お前の一番の相談相手に、
なりたいんだ。
我儘なのは、分かっている。
それでも俺は、
お前の全てになりたい。
些細なことでも、
全て俺に話して欲しい。
俺は全て受け止めるから。
心の灯火
貴方と初めて出会った、あの日。
私の心の灯火は、
既に消えていました。
親に捨てられ、
誰も助けてくれず、
私の精神は、
すっかり病んでいました。
それを貴方が、
救ってくれたのです。
人を信用出来ず、
警戒心だらけの私を、
貴方は根気強く、慰め、
私に、人の温かさを、
教えてくれました。
貴方に出会って、
私は初めて、
優しさを知りました。
愛を知りました。
そう。
貴方が、私の心の灯火を、
灯してくれたのです。
私の心の灯火は、
全て、貴方のもの。
だから。
ずっと私の側に、
居て下さいね。
開けないLINE
あいつと喧嘩して、
俺は家を飛び出した。
辛うじて、家から持って出た、
スマートフォン。
LINEのポップアップが表示される。
表示される名前は、
さっき、喧嘩したばかりの、
あいつの名前。
あいつからのメッセージが、
気にならないわけじゃない。
だが。
既読を付けたくなかった。
開けないLINE。
くだらない意地を張ってるだけだと、
頭では、分かっている。
だが。
あいつに負けるのは、
何だか、悔しかった。
また、LINEの通知、だ。
ポップアップに表示される、
メッセージの一部。
あいつが俺を心配してるのが、
伝わってくる。
それでも、開けないLINE。
喧嘩したばかりなのに、
あいつが、俺の事を、
心配してくれているのが、
何だか、嬉しくて。
あいつの好きな、
チョコレートケーキを買って、
家に帰ろう。
鳴り止まない、
あいつからのLINEの通知を見て、
…そう思った。
だが。もう少しだけ。
あいつが俺を、
心配してくれている、
この優越感に浸っていたいんだ。