空模様
今日は、朝から暑いなって、
そんな晴天で。
空いっぱいに、夏の青空が、
広がってた。
キラキラ太陽に、
綿飴みたいな入道雲。
何処までも高い青い空。
こんな日だから。
何かいい事あるかなって、
思ってたけど。
世の中そんなに甘くなくて。
仕事はトラブル続きだし。
憧れの先輩には、
恋人が居ることを知っちゃうし。
夕方にはすっかり意気銷沈。
帰り道、空を見上げる。
夕焼け間近の空が、
あっという間に、掻き曇る。
そして、大粒の雨粒が、
バタバタと落ちてきた。
夕立だ。
傘は無かったけど、
何処かに雨宿りする気にも、
走る気にもなれなくて。
まるで、俺の心みたいな、
…空模様。
びしょ濡れの俺は、
ポツリと呟いた。
鏡
鏡に映るのは、
血に塗れた、醜い私。
思わず目を背け、
鏡を叩き割りそうになる衝動を、
必死に堪えます。
そして、鏡に映る私に、
私は冷たく問い掛けます。
こんなにも罪深い私が、
何故、生きているのですか?
私は、私が生きる為に、
見捨てた人々の屍の山の上に、
立っているのです。
私が、生きる事を諦めれば、
死なずに済んだ人々。
私はそんな人々を犠牲にして、
生きているのです。
『貴方さえいなければ、
死なずに済んだのに。』
鏡に映る私に向けて、
私は被害者の想いを代弁をします。
『貴方の生命ある限り、
その罪の重さに苦しみなさい。』
そして、鏡の向こうの罪人に、
私はそう断罪するのです。
いつまでも捨てられないもの
私の机の引き出しの奥には、
ひっそりと小さな小箱がある。
その中には、
二度と指に嵌める事のない、
少しだけ古びた指輪が、
一つだけ、入っている。
苦々しく悲しい、
大切な想い出に纒わる品。
何時までも捨てられない物。
…それは、
嘗ての恋人との、
ペアリングの片割れ。
彼との関係は、
ずっと前に終わった。
そして、
元に戻る事は無いだろう。
そう。私がどんなに、
もう一度、彼とやり直したいと、
願ったとしても、
この願いは、叶う筈がない。
にも拘らず。
情けなくも、私は、
この想い出の片割れを、
ずっと、棄てられずにいるんだ。
誇らしさ
ホントに、俺って。
情けないな。
君は俺の事を、
気遣いの出来る、
優しい人間だって、
褒めてくれるけど。
何時も真っ直ぐで、
強い心を持ってる君と違って。
俺は、単に決断力が無くて、
優柔不断なだけ。
だから。
何時も君の隣に立っている。
そんな、誇らしささえ、
俺には、分不相応な気がして。
俺は、半ば君の影に隠れる様に、
そっと一歩下がって、
君と並ぶ事を避けてしまう。
君の隣に居られる事。
俺の唯一の誇らしさ。
これだけは、
絶対失いたくないのに…。
夜の海
海辺の夏の夜。
君と二人で、浜辺を歩く。
私達の頭上には、
煌めく夏の星が瞬き、
眼の前に広がる暗い海の上には、
青白い月が、月の光の道を作る。
夜の海を見ていると、
その深い青闇色に、
吸い込まれそうになり、
このまま夜の海の波間に、
消えてしまいたい。
そんな想いに駆られる。
この衝動に抗わなければ、
私は楽になれるだろう。
だが。
繋いだ君の手の温もりが、
私をこの世に繋ぎ止めていた。
ふと、
貴方が一緒に居てくれるなら、
私は何処へ行っても幸せです。
そう言って、君は微笑んだ。
私は、繋いでいた手に力を込めた。
例え二人の身に何が起きようとも、
君の手を決して離さぬ様に、と。
夜の海は、静かな波の音を立て、
そっと、私達を呼んでいる。
…そんな気がした。