霜月 朔(創作)

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7/1/2024, 5:48:41 PM

窓越しに見えるのは


仕事の合間に、ふと、窓の外を眺めた。
青い空には、太陽が輝いてた。
今日は良い天気だな、って、思って。
何か、テンションが上がった気がした。

と。
キラキラと輝く太陽の元、
憧れの先輩が歩いてきたのが見えた。
俺は思わず、窓を開けて、
先輩に声をかけようとした。

その瞬間。
先輩に小走りに駆け寄る人影が、一つ。
すると、先輩は、
その人に、飛び切りの笑顔を向けた。
そして、先輩とその人は、
とても親しげに、一緒に歩き出した。

窓越しに見えるのは、
幸せそうな先輩と、
俺じゃない誰かが、
親しげに連れ立って歩く姿。

隣に立つ『誰か』に、
優しくに微笑みかける先輩は、
ホントに幸せそうで。

なのに、俺は…。
窓越しに見える憧れの先輩を、
胸の痛みを堪えながら、
只、黙って見詰めるだけ。

6/30/2024, 11:43:36 AM

赤い糸


東の方のある国では、
将来、結ばれる運命の男女は、
お互いの小指と小指が、
見えない赤い糸で結ばれている…。
そんな言い伝えがあるそうです。

『見えない』のに『赤い』なんて、
形容矛盾を含んだ、そんな言い伝えが、
真実である筈がないのは、解ってます。

ですが。
今、私の小指は、
貴方の血で真っ赤に染まっていて。
それはまるで、運命の赤い糸の様だと、
思えてならないのです。

そして、私の小指だけでなく。
私の掌も、腕も、胸も、脚も。
私が、貴方の胸に突き立てた、
ナイフの傷から溢れ出る、
貴方の血で、真っ赤に染まっています。

…次は。
私の血で、貴方の小指を染めましょう。
そして、二人から流れ出た赤い糸の中、
二人の世界に旅立つのです。

ずっとずっと…一緒に居ましょう。
だって。私と貴方は。
お互いの小指と小指が赤い糸で結ばれた、
運命の相手…になったのですから。

6/29/2024, 5:57:57 PM

入道雲


何処迄も高く青い空に、
真っ白な入道雲。
まるで幼子が描く夏の絵の様な、
青と白のコントラストが、
私達の頭上に広がっていました。

余りに見事な入道雲。
夏の象徴とも言える雲を見て。
激しい夕立がやってくるのでは、と、
心配する私の隣で。
 
彼は、楽しそうに空を見上げて、
この雲が綿飴だったら、
皆でお腹一杯になる迄、
綿飴が食べられるのに。
…だ、なんて、
子供でも恥ずかしくて、
口にしない様な夢物語を、
惑いもなく語るのです。

そんな彼は、私には、
入道雲が浮かぶこの夏の空より、
ずっとずっと眩しくて。

この笑顔を護る為なら、
私は、何でも出来るのだろうと、
眩し過ぎる空に目を細め、
密かに、思うのです。


6/28/2024, 4:09:42 PM




夏の青い空を見ていると、
何だか、無性に悲しくなる。

夏の強い日射しも気に留めず、
麦藁帽子を被り、虫取り網を片手に、
甲虫を探し、蝉を追って、
朝から夕方迄、野山を駆け巡っていた、
あの日の少年は、
何処へ行ってしまったのだろう?

真っ白な入道雲の元、
太陽の激しい光を浴びて、
キラキラと輝く水面を見詰め、
海や川で、只管水浴びに興じていた、
あの日の少年は、
何処へ行ってしまったのだろう?

ここに居るのは、
本格的な夏の訪れを前に、
既に暑さに参った身体を引き摺り、
鬱々と仕事を熟す冴えない男が、
ただ、一人。

6/27/2024, 5:30:56 PM

ここではないどこか


今迄、本当に苦しかっただろう。
だが。その苦しみも、
もう直ぐ終わる。

生きていくという事は、
多かれ少なかれ、辛いものだ。
しかし、君の人生は、
余りに不遇で不幸だった。

しかし、君は。
その不遇を託つ事も無く、
向けられた悪意に染まる事も無く、
直向きに生きてきた。

もう、そんなに傷だらけになって、
心から血を流して迄、
頑張り続けなくても良いんだ。
…今迄、本当にお疲れ様。

さぁ。
このまま、私と共にゆっくり眠ろう。
大丈夫。何も怖くはないから。
これからはずっと、
私が君の隣に居るから、ね。

生命を断つ事でしか、
君を襲う数多の苦しみから、
救う事が出来ない私を、
どうか、赦して欲しい。

さあ。
此処では無い何処かで。
今度こそ、二人で幸せになろう。

…約束だよ。

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