エイプリルフール
貴方は信じてはくれないでしょうが、
ずっと以前から、
私は貴方に惹かれているのです。
出来るなら、貴方の隣に立ちたい。
貴方をずっと護りたい。貴方に私を見て欲しい。
そう、希っているのです。
ですが。
貴方に、私のこんな気持ちを告げた所で、
貴方にとっては、迷惑でしかない事は、
良く分かっています。
ですから、普段は。
貴方への恋慕は、心の奥底に仕舞い込み、
私は素知らぬ顔で、貴方と相対するのです。
…只の友人として。
それでも、やはり。
貴方への恋慕を、心の中に押し込め続けるのは、
余りに、苦しくて。
私は年に一度だけ、本当の気持ちを、
エイプリルフールの嘘という名目で、
言葉にして、貴方に告げるのです。
そして、また今年も。
私は、貴方が決して信じない、
エイプリルフールの嘘を吐きます。
…誰よりも、貴方を愛しています、と。
幸せに
君は未だ、私を憎んでいるのかな?
それとも。
私の事は、思い出さない様にして、
生きているのかな?
あの時の君は、
他人の命と引き換えに、自らの生命を永らえ、
大切な人や大切なものを失い、
世の中全てに絶望し、死を願っていた。
だから、私は君に生きる意味を与えた。
それは。
私を憎む事。そして、憎き私に復讐する事。
私は、君に生きていて欲しかった。
君がこの世に執着する理由が、
私への憎しみや復讐だとしても。
君の魂を永遠に失わずに済むなら、
私は喜んで、君に憎まれよう。
そう思ったんだ。
私が君にあげられる最後の愛情が、
君に憎まれてあげる事だなんて。
余りに、残酷な話だけど。
私を…狂おしい程に憎んでいいから。
私が君を愛おしいと想う程に強く、
私の事を…強く強く憎んで。
そして、どうか。
二度と、生きる事を放棄しないで欲しい。
もう、逢う事は叶わないだろうけど。
それでも、願わずには居られない。
…どうか、幸せに。
何気ないふり
俺はずっと、自分の事が大嫌いで、
辛い夜や落ち込んだ夜は、
自分を自分で傷付けなければいられない。
俺は俺を罰する。
血が出る程斬り付け、痣が出来る程殴る。
そして、俺は俺に謝罪するのだ。
御免なさい。赦して下さい…と。
そうして俺は、漸く僅かな安寧が得られる。
でも、翌日になれば、
俺は身体中の傷の痛みを押し隠し、
何気ないふりして身体の傷を庇い、
日常生活を熟していかなければならない。
本当は、打撲跡は酷く腫れ上がり、
傷口からは出血が続き、全身が軋む様に痛み、
身体も心も、悲鳴を上げたい程苦しいのに。
でも。ある時。
俺が自らによって罰を受けた翌日は。
何故か、何時もより。
仕事が少なくなっている事に、気が付いた。
注意深く観察して、やっと分かった。
俺が傷だらけの日は、先輩が何気ないふりして、
俺の仕事を、肩代わりしてくれていた事に。
どんなに痛くても、辛くても、惨めでも。
何気ないふりして日常を過ごすのは、
俺の得意技だと思ってたけど。
先輩の方が、ずっとずっと上手だったなんて。
だから先輩。
…何時かきっと。
何気ないふりして、お礼をするんで。
何気ないふりして、受け取って下さい。
ハッピーエンド
他人から見れば、
俺の人生なんて、塵屑みたいな代物だろう。
親と幼い頃に死に別れ、故郷を追われ、
戦場で戦う事が全てだった。
身体の一部を失っても尚、
俺には戦場に立つことしか、
生きる道が、ない。
そんな俺にも。
野の花に心を奪われる事もあった。
空の青さに目を瞠る事もあった。
季節の風に身体を預ける事もあった。
そんな些細な事が、
俺にとっては、生きているという証だった。
遠くない未来。
俺は、捨てられた人形の様に、
戦場で斃れ、そのままくたばるだろう。
こんな結末。
俺の事を、何にも知らない人が見れば、
アンハッピーエンドだと思うだろう。
だが。
護りたい人の為に死ねるのなら。
例え、戦場で独り息絶えるのだとしても。
俺にとってそれは、
ハッピーエンドなんだ。
見つめられると
何でだろう?
お前の事なんか、別に何とも思ってないし。
特別じゃない、只の友達だし。
だけど。
お前に見つめられると。
何だか、胸の辺りが苦しくなって。
少しだけ、鼓動が早くなって。
お前の前から逃げ出したくなる。
でも。こんなの、カッコ悪過ぎるから。
お前が俺を見つめてるのに気付くと、
俺はつい、文句を言ってしまう。
用もないのに、俺の事を見るなよ!…って。
なのに。
俺が何度文句を言っても、
お前は、僅かに笑みを浮かべて、
子供の様にキラキラした瞳で、
俺を見つめるんだ。
何時までもガキみたいな俺で、御免。
俺はまだ。
お前を見つめ返す事が出来る程、
強くは無いんだ。