ひとつ

Open App
8/21/2023, 11:19:55 AM

●鳥のように


 莉世子は地味な女だった。
 化粧をしても変わり映えのない顔立ちに加え、貧相でどこか暗い。

 それはまるで鳥のように――。
 多くの鳥はメスが地味でオスの方が派手だ。
 だから私は莉世子が嫌い。
 
「莉世子、おめでとう」
「江沢さん、ありがとう」
 私は爽やかに言うと、莉世子の横に立つ嶋野を見た。
 罰の悪い笑顔を返し、嶋野はウェディング姿の莉世子を伴いその場を後にした。

 嶋野は私と莉世子を二股にかけていたのだ。
 選ばれたのは――。

 嶋野は勤め先の会社の跡継ぎで、派手で金回りの良い男だ。

 なぜ私ではなかったのか。
 全身の手入れを欠かさず、嶋野に負けないように装い尽くしてきたというのに。

 派手な嶋野と地味な莉世子が並ぶと、とてもちぐはぐで何だか笑えてくる。
 
 それはまるで鳥のように――。









 

8/21/2023, 1:56:43 AM

●さよならを言う前に


 その時、絢子の前に鮮やかな青い蝶が舞い込んできた。

 絢子が左手を出すと、それはまるで青い宝石の指輪のようにすっととまった。
 瞬間、絢子は右手で蝶をクシャッと握り潰した。

 絢子は母の葬儀のため纏った喪服に、自分の人生を重ねていた。
 そして旅立った母のそれは、さきほどの美しい蝶のような生涯だと感じたのだった。

「さよなら、お母さん」
 絢子は晴れ渡る空を見上げた――。