●さよならを言う前に その時、絢子の前に鮮やかな青い蝶が舞い込んできた。 絢子が左手を出すと、それはまるで青い宝石の指輪のようにすっととまった。 瞬間、絢子は右手で蝶をクシャッと握り潰した。 絢子は母の葬儀のため纏った喪服に、自分の人生を重ねていた。 そして旅立った母のそれは、さきほどの美しい蝶のような生涯だと感じたのだった。「さよなら、お母さん」 絢子は晴れ渡る空を見上げた――。
8/21/2023, 1:56:43 AM