路地

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3/21/2023, 11:30:55 AM

『人は良い所に埋まりたがる』とは言ったものだが、こんな辺鄙な場所を選ぶなんて、この世には私達しかいないのかもな。


お題 二人ぼっち

3/20/2023, 12:26:30 PM

瞼を開ける。目に映るのは自室の壁紙ではなく、水面の光が反射した、薄水色か緑色か、そんな色が混じった天井だった。ゆらゆら、ゆらゆらと水面の丸い形が揺れる。まるで海の底。
「うみ、」
海のそこ、と口から零れた言葉は、まぁるい気泡になって天井へと吸い込まれていった。思わず深く息を吐く。全てが空気の泡になってまた登っていった。半袖から覗く腕に、柔らかいものが触れているのに気がつく。産まれたての小鳥のような、しかし形がしっかりとしていないやわいもの。目線だけを動かす。岩にこびり付いた藻が、水の流れと揺れている。右手の指の合間には長い水草が生えている。足の先は沈む泥の感触がする。
ああ、ここは沼の底だ。首元を、己の髪の毛か水草かが掠めていく。小魚が顔の上を通ってゆく。そのまま小魚を追って左へと目をやると、白いものが見える。
沼の底で滅多に見れそうにない白。長細く、細かく散ったそれは、大まかな形だけを残していた。
それの右手は、私の左手に重なっていた。
私はその人になにか言おうとして、気泡だけが口から溢れ出た。閉じて、また開いて。
何か言わなくちゃいけなかったような気がする。目を閉じて考える。水面の光が瞼を透かす。
盆の日の夜だった。


お題 夢が醒める前に

3/19/2023, 10:57:23 AM

どろり、と視界が解ける。意地で瞼を押し上げてはまた下げて、それでもまた上げて。物凄く眠いけれど寝るには勿体ない気がする。風呂上がりの、体温が冷えていく感覚が心臓を少し速める。肌寒い。
「もう、眠いの?」
斜め上からの声に頭だけを動かして応える。目を閉じれば映画の音楽が響き、まだ見たいと目を開ければテレビから発せられる独特な青い光が酷く眩しくて。
急に肩が温かくなる。それと対比してか、小さな毛布に入り切らなかった足元が一段と冷えた気がする。さむい、と隣に縋り付いた。半身から受け取る熱と、己のものでは無い匂いが心臓を強く打った。


お題 胸が高鳴る

3/18/2023, 12:27:35 PM

不条理である。まことしやかに囁かれてきた、それを目の当たりにした感覚である。窓の外には春霞を連れてきた青空が広がって居る。対して私の自室は真っ暗である。今頃桜が咲き始めるだろう。春特有の甘い草木の匂いが、道行く人々の顔を覆っているのだろう。私は、まだ冬の香りを放つ石油ストーブをただ見つめていた。もうすぐ、この部屋はどんな日差しよりも熱を持つことになる。金品を求め荒らされた自室の中、私の足元には、腹から血を流す私がいる。ああ、不条理である。


お題 不条理

3/18/2023, 4:35:11 AM

「あ」
皿洗いの、洗剤が混じった水道水が顔まで跳ねる。二、三滴の水が肌を滑る。拭いたいけど、両手は洗剤まみれで顔を触れない。肩を回すようにして、強引に顔を腕で拭った。
ふと、脳裏に海の匂いがした。あの時も両手は海水まみれで跳ねた塩水を肩で拭った。バシャバシャと波を立てながら浅い水面を泳ぐ小魚を探した。顔にまた塩水がかかる。白い手でかけられた。手の持ち主の顔は逆光で見えなくて、キラキラと透ける髪の毛を風が弄んでいた。
口の中に塩水が入る。塩の味がする。今は一人分の皿を洗うので精一杯なのに。


お題 泣かないよ

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