「あ」
皿洗いの、洗剤が混じった水道水が顔まで跳ねる。二、三滴の水が肌を滑る。拭いたいけど、両手は洗剤まみれで顔を触れない。肩を回すようにして、強引に顔を腕で拭った。
ふと、脳裏に海の匂いがした。あの時も両手は海水まみれで跳ねた塩水を肩で拭った。バシャバシャと波を立てながら浅い水面を泳ぐ小魚を探した。顔にまた塩水がかかる。白い手でかけられた。手の持ち主の顔は逆光で見えなくて、キラキラと透ける髪の毛を風が弄んでいた。
口の中に塩水が入る。塩の味がする。今は一人分の皿を洗うので精一杯なのに。
お題 泣かないよ
3/18/2023, 4:35:11 AM