私の視線の、真ん中に人を映しても、目から涙が溢れてしまうの。だから辛くて辛くてたまらないの。
でも、私を視線の真ん中に映してくれる人は現れないの。だから寂しくて寂しくてたまらないの。
私は決めたの。もう人を私の視線の真ん中に映すのはやめようと。
もし、映したくなった人ができたら…せめて端っこに、そっと映すわ。
小学校の時、私だけ皆んなと遊んで苦しい顔をしていた。
中学校の時、私だけお弁当を一緒に食べる友達がいなかった。
高校の時、私だけ移動教室で一緒に行ける友達がいなかった。
不幸自慢ではないけど、こんなに嬉しくない特別は初めてだった。
生きるって、難しいのね。
ガタンっと椅子が倒れ、机がずれる。周囲できゃあっと女子達の悲鳴が上がる。
目の前にいるあいつは、腰を抜かして地面に座り込んでいた。
自分の顔の真横に振り上げた拳は、ふるふると震えている。
「何だよ?!」
たった一人きりの親友が、5年前にいじめが原因で自殺した。加害者のあいつは先程、よりにもよって自慢気にそれを話していたのだ。あいつが悪い、だから俺はせーさいを与えた、その結果自殺したから自業自得だと。
許せなかった。自分の中の全てが、怒りで染まった。
でもいざ殴ろうとした時、親友が自殺する瞬間を思い出したのだ。
遠いあの日、俺が見かけた時あいつは既に、窓枠に足をかけていた。必死に止めた。だけどあいつは泣き笑いみたいな顔をして言ったのだ。
「ごめん。俺、このままじゃ、全部が憎くて仕方なくなる。俺、いじめたやつを殴っちまったんだ」
そんな気持ちになるのは当たり前だ、お前は悪くないと言い募っても、あいつには届かなかった。
「ごめん。俺、お前の前では、優しくいたいんだ」
そう言って、ひらりと飛び降りていった。
あいつは憎くても優しくいたいって苦しんでたんだよな。拳を振りかざした時そう思ったら、何故だか殴るに殴れなくて、代わりに涙がぼろぼろ溢れてきた。年甲斐もなく、幼子のように泣き崩れてしまった。
なんて広いんだろう。
こうやって眺めていたら、自分も広い空に浮かんでいるように錯覚する。でもちっぽけ。
きれいな水色。…寝ちゃいそう。
「もう、終わりにしよう」
たった一人きりの親友が苦しそうに笑いながら言った。その瞬間、私の中の何かがガラガラと音を立てて崩れた。
「…どうしたの、何でいきなりそんなこと言うの」
何でもないことのように口角を上げる。そう、何でもないこと。なのに声が震えた。
「だってやっぱりおかしいよ。こんなことして、何も変わらないよ。寧ろ、悪い方に大きくなってる!だって希は、大きな子供みたいになってるよ!」
目の前にあった鋏を、ひったくるように手に取った。隣にあったティッシュボックスが、刃に当たって音も立てずに床に落ちる。
そのまま希は、親友に向かって鋏を振りかざした。
親友は、胸を真っ赤に染めて、死んだ。
全てを、終わりにしてしまった。残ったのは、絶望の海だけだった。