Open App

ガタンっと椅子が倒れ、机がずれる。周囲できゃあっと女子達の悲鳴が上がる。
目の前にいるあいつは、腰を抜かして地面に座り込んでいた。
自分の顔の真横に振り上げた拳は、ふるふると震えている。
「何だよ?!」
たった一人きりの親友が、5年前にいじめが原因で自殺した。加害者のあいつは先程、よりにもよって自慢気にそれを話していたのだ。あいつが悪い、だから俺はせーさいを与えた、その結果自殺したから自業自得だと。
許せなかった。自分の中の全てが、怒りで染まった。
でもいざ殴ろうとした時、親友が自殺する瞬間を思い出したのだ。
遠いあの日、俺が見かけた時あいつは既に、窓枠に足をかけていた。必死に止めた。だけどあいつは泣き笑いみたいな顔をして言ったのだ。
「ごめん。俺、このままじゃ、全部が憎くて仕方なくなる。俺、いじめたやつを殴っちまったんだ」
そんな気持ちになるのは当たり前だ、お前は悪くないと言い募っても、あいつには届かなかった。
「ごめん。俺、お前の前では、優しくいたいんだ」
そう言って、ひらりと飛び降りていった。
あいつは憎くても優しくいたいって苦しんでたんだよな。拳を振りかざした時そう思ったら、何故だか殴るに殴れなくて、代わりに涙がぼろぼろ溢れてきた。年甲斐もなく、幼子のように泣き崩れてしまった。

7/18/2023, 6:23:23 AM