私の小指と赤い糸で繋がっている未来の旦那さんへ。
自分で言うのも何ですが、私はかなり面倒くさい人間です。なので先に言っておきます。
1,性格が本当に猫のようです。心を開いて甘えてくるまでかなり時間がかかると思います。またツン要素が多めのツンデレなので、少し冷たいと感じてしまうこともあるかもしれません。ご了承ください。
2,炊事が大の苦手です。そもそもかなりの不器用&大雑把なので、あまり期待しない方が良いでしょう。(掃除はできます。しかしひどい面倒くさがりなので、グダグダしていることが多いでしょう。やる気が出れば頑張れます)
3,何かに集中すると周りが見えなくなります。また、自分が本気でやっていることや大好きなものに対してネガティブな口出しをされるのを特に嫌います。どうか広い心で遠くから見守るか、応援してください。
じわじわと遠くで蝉が鳴く。
澄み切った空に、青々とした山。
ちりんちりんと涼しげに揺れる風鈴。
今年も帰ってきた。ぴったり8/13に。
いつだって完璧で。
いつだって頼りになって。
いつだってキラキラしてて。
いつだってすごくて。
ここではないどこかで活躍する自分を何度も妄想する。
妄想の中の完璧な自分のつもりで振る舞う。
でも暗い暗い自分の部屋で埋もれている時に、ふっと冷静になる。
馬鹿みたい。ここではないどこかって、そんなのあるわけないのに。いつだって完璧だなんて、そんなの自分には絶対にできっこないのに。
…ああ、もし、『ここではないどこか』が存在するなら、劣等感の感じられない場所がいい。
君と、最後に会った日。
君は棺桶の中で眠っていた。お葬式の最後に火葬場の前でお別れをしたのが、君との記憶で一番新しいもの。あの時のことは正直…あまり覚えてないかな。
唯一覚えてるのが、外で待ってたら花壇の植え込みに咲いてた椿の花が、ぼとんと落ちたこと。その時何でだか、もう君はいなくなってしまったんだって実感して大号泣したの。
椿。椿。
今どこにいるの?どこにいなくなっちゃったの?
私がこれから生きて生きて生き抜いたら、どこかで会うことはできますか?また巡り会ったら最後まで会って、また次も巡り会って最後まで会って。
そうやって、椿が私にくれたものを返していきたいな。
でもきっと返しきれないんだろうな。
「こんにちは、サンカヨウさん」
「あら、珍しいわね。雨が降ったら私は透明になるから、中々気づいてくれる方がいないのに」
「いいえ。分かりましたよ」
ゆずの木が、葉をさわさわと揺らした。
「あなた、ずっとずっとここにいるけれど、どうして今になって私に話しかけてきたの?今までそんなことなかったのに」
「すいません。僕、明日切られてしまうんです。古くなって実も実らないので。だから、思い出づくりみたいなものです」
「…あなたいくつ?」
「木に年齢を尋ねてもしょうがないですよ。まあでも、サンカヨウさんがここに生えてくる前からいます。他の植物の方には内緒ですよ?」
暗に、自分が彼にとって特別な存在であるということを言ったのか。
「…あなた、私のこと好きなの?」
「流石サンカヨウさん。よくお分かりで」
「やめときなさい。私、こう見えて大胆なんだから」
「おや、そうなんですか?どうして?僕にはとっても繊細に見えるのに」
この木は今まで何を見てきたのだろう。
「…私は透けるでしょう。それが他の植物にとっては大胆なのよ。声をかけてきた植物みんな、最後にはそう言ってたわ」
さわさわとゆずの木が笑う。
「それは他の植物達が言っていることでしょう?僕、あなたが生えてきた時から知ってるんですよ?あなたは繊細で優しい、綺麗な花です。サンカヨウさんが、雨に降られて透明な雨色に染まるところ、僕すごく好きです」
意外と詩人なのね、と口を開こうとしたら、どやどやと人間の男達がやってきた。「明日は大雨が降る」とか色々話している。
ゆずの木は、泣き笑いみたいな音をたてた。
「…すいません。今日になったみたいです」
大きくて重そうな刃のついた機械を持って、男達が木を囲む。しばらくしてから、耳が壊れるくらいのうるさい音が響いた。
私、明日もまた綺麗な雨色に染まるわ。今日よりもっと、綺麗に染まるわ。
だけど。
「…そんなこと、言われたの、初めてよ」
サンカヨウがぽつりと言えたのは、それだけだった。