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「こんにちは、サンカヨウさん」
「あら、珍しいわね。雨が降ったら私は透明になるから、中々気づいてくれる方がいないのに」
「いいえ。分かりましたよ」
ゆずの木が、葉をさわさわと揺らした。
「あなた、ずっとずっとここにいるけれど、どうして今になって私に話しかけてきたの?今までそんなことなかったのに」
「すいません。僕、明日切られてしまうんです。古くなって実も実らないので。だから、思い出づくりみたいなものです」
「…あなたいくつ?」
「木に年齢を尋ねてもしょうがないですよ。まあでも、サンカヨウさんがここに生えてくる前からいます。他の植物の方には内緒ですよ?」
暗に、自分が彼にとって特別な存在であるということを言ったのか。
「…あなた、私のこと好きなの?」
「流石サンカヨウさん。よくお分かりで」
「やめときなさい。私、こう見えて大胆なんだから」
「おや、そうなんですか?どうして?僕にはとっても繊細に見えるのに」
この木は今まで何を見てきたのだろう。
「…私は透けるでしょう。それが他の植物にとっては大胆なのよ。声をかけてきた植物みんな、最後にはそう言ってたわ」
さわさわとゆずの木が笑う。
「それは他の植物達が言っていることでしょう?僕、あなたが生えてきた時から知ってるんですよ?あなたは繊細で優しい、綺麗な花です。サンカヨウさんが、雨に降られて透明な雨色に染まるところ、僕すごく好きです」
意外と詩人なのね、と口を開こうとしたら、どやどやと人間の男達がやってきた。「明日は大雨が降る」とか色々話している。
ゆずの木は、泣き笑いみたいな音をたてた。
「…すいません。今日になったみたいです」
大きくて重そうな刃のついた機械を持って、男達が木を囲む。しばらくしてから、耳が壊れるくらいのうるさい音が響いた。
私、明日もまた綺麗な雨色に染まるわ。今日よりもっと、綺麗に染まるわ。
だけど。
「…そんなこと、言われたの、初めてよ」
サンカヨウがぽつりと言えたのは、それだけだった。

6/25/2023, 12:18:17 PM