冷たい風が肺を刺す。
太陽が眩しく体を貫き、希望で満ち満ちていく。
今年はどんなことをしよう。
今の幸せが続きますようにとか、不幸が起きませんようにとか。
いややっぱりここは無難に健康か…?
神社の参列の列を進みながらぼんやりと考える。
子供の頃は1年がやたらと長く感じて、毎年新鮮な気持ちでお願いをしたものだった。
いつからか、正月は去年の続きのようなもので、特に神様にも期待をしなくなった。
長い人生、何十回と正月を迎える。
毎度同じ目標になるのは仕方ないだろう。
正月の特別感も年々薄れているような気がする。
ガランコロンと前の人が鈴を鳴らす。
確かにここ数年同じような願い事ばかりお願いしてきた。
しかし同じ内容であれど、全く同じことが起きる年などなかった。
変わらないものなどないのだ。
変わらないことを願っても叶わない。
ただ自分なら変えられる。
今の幸せを維持するために自分の行動は変えられる。
ならば今年はどんな一年にしようか…
賽銭箱に小銭を入れ鈴を鳴らす。
ガランコロンガランコロン。
神様誓います、今年は…
"1年間を振り返る"
物語を書き続け、2ヶ月。
自分の創作欲を満たすためだけに、SNSではない、何か、自分の頭の中の世界を世に放つためのドアを探しこのアプリと出会いました。
最初に書いた物語を上げたら、顔も名前も分からない誰かからリアクションが返ってきて驚きました。自分の中の小さな承認欲求がくすぐられて、嬉しいような恥ずかしいような気持ちでした。
私も誰かのドアを叩きたくて、見てみると本当に色んな世界が広がっていました。まるでウィンドウショッピングをしているような気分でした。
あの言葉選び綺麗だな、この想像力いいなとドアを叩きまくりました。
最近は年末の忙しさにやられて創作意欲が溜まりまくっているので、また更新していきます。
今年ハートをくださった皆様ありがとうございました。
来年も何卒よろしくお願い申し上げます。
空に手を伸ばしてみる。
空を切るだけで何も得られない。むしろこちらが吸収されそうになる。
目一杯目を開けても全て視界に入れることはできない。
それでも手を伸ばし続けていたら、ぎゅっと掴まれてしまった。
「飛んで行きそうで怖い。」
少し寂しそうに笑って私の手を下ろす。
学校の屋上。
本来は立ち入り禁止だが、鍵が壊れていた秘密の楽園。
息苦しい世界から自由な空を少しでも近くに感じられる場所。
「もし人間が空を飛べたとしたら、地上で生活する人はいるのかな。」
「基本的に地上で生活するでしょ。だって飛べはするけど、物を浮かすことはできないからね。家も学校もぜーんぶ地上に作るしかない。」
「そっか。」
彼女は賢い。しっかりと地に足をつけて生きてきたのだろう。私の突飛な空想をバッサリ斬り落としていく。
「私飛んでみたいなあ。いつか。」
「鳥人間コンテストに挑戦するの?」
「そうじゃないよ。」
学校というしがらみから自由になりたい。
学生を卒業したら働くという決まったルートから自由になりたい。
あなたはこうでしょという偏見から自由になりたい。
人生への執着から自由になりたい。
空を飛んだらそういうものから自由になれそうじゃない?
「人間は空を飛べないよ。飛ぶんじゃなくて落ちるんだよ。」
彼女は賢い。
「私を置いていかないで。」
その声は聞こえないほど小さかった。
彼女は空を飛んだ。
一瞬だけね。
あんなに空への憧れを斬ったのに。
置いていかないでって言ったのに。
空に手を伸ばしてみる。
なんだか吸いこまれてしまいそうですぐに手を引っ込めた。
「ベル」
今日も今日とて冬日和。
暖炉に火を焚いて、薪が弾ける音を聞きながら暖かいコーヒーを淹れる。
外の木が枝を振り乱して、羨ましそうにこちらを覗き込む。
レコードをかけようと席を立った時だった。
カランカラン、と入り口のベルが客を招き入れた。
「あの…」
小さな女の子がドアマットに立ち尽くしている。
分厚いコートに大きなマフラー、目の端ギリギリまで深く被されたニット帽。寒くないようにと、両親の愛情でぐるぐる巻きにされている。
「何でも屋さんですか…?」
遠慮がちに尋ねる。
何でも屋さんではないが…似たようなものだ。
「そうですよ。寒かったでしょう。そこのソファにに座りなさい。」
暖炉のそばのソファを指さした。
女の子はホッとした様子で暖炉に歩み寄った。
私はココアを入れて女の子のそばに置いて、向いのカウチに座った。
「さて御用はなんでしょうか?」
小さな子供とはいえあのベルを鳴らしたからにはきちんとしたお客様だ。いつものように紙とペンを用意する。
少女はもじもじして中々話し出そうとしない。
まあ時間はいくらでもある。
レコードからバイオリンとピアノの協奏曲が流れて止まりそうな空気をかき混ぜる。
「雪を降らせてほしいんです。」
小さな声でポツリと呟いた。
「雪?」
この地域は雪が降らない。昔一度だけどっさり降ったことはあったらしいが、それ以来雪は降っていない。
「おばあちゃんが雪を見たいって。昔、お日様に照らされた雪はキラキラしててまるで宝石のように美しかったって。」
久しぶりに大きな仕事がやってきたぞ。
「分かりました。その願い叶えましょう。」
少女はパッと顔を上げた。
「明日の朝には用意しておきますよ。」
少し訝しむ様子ながら期待に満ちた瞳を輝かせる。
少女を見送ると、店じまいをし、店の奥に引き篭もった。
ここは代々続く魔法使いの店。
強く純粋な願いを持つ人間の前に現れる。
雪を降らせる魔法ね…
午前3時。店の外に出ると空を見上げて杖を振った。
「おばあちゃん!外見て!雪!」
孫の声で目を開ける。もうほとんど何も見えないが、孫らしき影を探す。手が握られて腰に腕が添えられる。
「おばあちゃんほら見て」
孫に体重をかけないように必死に足を踏ん張る。
窓枠につかまると光が目を刺した。
キラリキラリと白む視界で輝く。
「何でも屋さんにお願いしたの。本当に叶えてくれたんだ!」
孫が興奮した様子で飛び跳ねる。
懐かしい記憶が呼び起こされるようだ。
薪が弾ける音。バイオリンとピアノの協奏曲。コーヒーの香り。
「その願い叶えましょう。」
校門を出ると風がぴゅうっと通り過ぎた。
寒すぎて思わず立ち止まってしまう。
本当に冬は外に出るべきじゃない。マフラーを締め直してフードを被り歩き出す。
冬は嫌いだ。寒いし、楽しいイベントもないし、なんか悲しい気分になるし寒いし、寒いし。
早く春になってくれないかなー。
「よっ!」
「いって」
思い切り肩を叩かれてバランスを崩す。
振り返ると先輩だった。生足にスカート。マフラーも巻かずにニヤニヤしている。
「…寒くないんですか。」
「寒いよ。当たり前じゃん。」
じゃあ防寒しろよ。心の中でツッコむ。
部活で仲良くなった彼女とは姉弟のように言い合いをしてしまう。
曇った空から太陽が覗く。
「てか明日雪降るらしいよ!」
「雪?別にそんなに珍しいもんでもないしょ。」
「1年ぶりだよ?超楽しみ!」
「そんなんで興奮するとか犬ですか。」
「はあー!?」
彼女がまた笑いながら肩を叩く。
授業中に先生がこけた話。テストで大やらかしした話、飼っている猫が可愛い話。
ペラペラと彼女が話す。
僕は歩幅を狭めて、彼女の声を聞き取りやすいようにフードを脱いだ。
春になったら彼女は卒業する。
同じ帰り道を歩くことも同じ制服を着ることもない。
心がチクリと痛む。
彼女と居れるならもう少し冬でもいいかもしれない。
雪を待つ彼女のためにも。