空に手を伸ばしてみる。
空を切るだけで何も得られない。むしろこちらが吸収されそうになる。
目一杯目を開けても全て視界に入れることはできない。
それでも手を伸ばし続けていたら、ぎゅっと掴まれてしまった。
「飛んで行きそうで怖い。」
少し寂しそうに笑って私の手を下ろす。
学校の屋上。
本来は立ち入り禁止だが、鍵が壊れていた秘密の楽園。
息苦しい世界から自由な空を少しでも近くに感じられる場所。
「もし人間が空を飛べたとしたら、地上で生活する人はいるのかな。」
「基本的に地上で生活するでしょ。だって飛べはするけど、物を浮かすことはできないからね。家も学校もぜーんぶ地上に作るしかない。」
「そっか。」
彼女は賢い。しっかりと地に足をつけて生きてきたのだろう。私の突飛な空想をバッサリ斬り落としていく。
「私飛んでみたいなあ。いつか。」
「鳥人間コンテストに挑戦するの?」
「そうじゃないよ。」
学校というしがらみから自由になりたい。
学生を卒業したら働くという決まったルートから自由になりたい。
あなたはこうでしょという偏見から自由になりたい。
人生への執着から自由になりたい。
空を飛んだらそういうものから自由になれそうじゃない?
「人間は空を飛べないよ。飛ぶんじゃなくて落ちるんだよ。」
彼女は賢い。
「私を置いていかないで。」
その声は聞こえないほど小さかった。
彼女は空を飛んだ。
一瞬だけね。
あんなに空への憧れを斬ったのに。
置いていかないでって言ったのに。
空に手を伸ばしてみる。
なんだか吸いこまれてしまいそうですぐに手を引っ込めた。
12/23/2024, 6:04:49 AM