私は多分、極度の怖がりだ。
虫が怖い。吠える犬が怖い。夜が怖い。ホラーが怖い。火が怖い。刃物が怖い。雷が怖い。車が怖い。自分とは違う人間が怖い。人を傷つけるのが怖い。人に嫌われるのが怖い。だから、人と関わるのが怖い。
でも姉は、私とは正反対だった。
虫は嫌いだけど、怖くない。犬は吠えられても可愛い。夜は神秘的で好き。ホラーはスリルがあって面白い。火は暖かくて好き。刃物は便利。雷は音がたくさんあって面白い。車はドライブできて楽しい。自分とは違う人間は、違うからこそ興味深い。自分は人を傷つけるようなことはしないとわかっているから怖いと思わない。人に嫌われても自分が嫌いにならなければいい。だから、人と関わるのは好きだ。
「怖がりでもいいと思う。それも自分の一部なわけだし、否定するつもりはない。けど、やらずに怖がるのだけはやめなよ。そこで得られるはずだったことを、挑戦しないことで得られないのは、後で後悔に繋がるから」
いつか、姉に言われたことを思い出す。
今日は高校の入学式。中学の数少ない友達はほとんどいない。私はここで怖がりを克服しなければ、この三年間、後悔ばかりが募るだろう。
私の中の怖がりな私が、刺激だらけの世界への扉を、ゆっくりと開いた。
人の心とは宇宙のようなものだ。この世の何よりも大きく、気まぐれで、果てしない未知の世界。
人がわかることは、ただわからないということ。とにかく想像力を働かせて、一つ一つ紐解いていく。
人の心は宇宙のようなものだから、星のように、光り輝くナニカが、人の心にはある。
感情、経験、才能、性格。それは夜空に溢れた星々のように、美しい。
星は誰かのものにはできない。星は誰かの思い通りにはならない。そして、されていいものではない。
あなたの心に溢れる星は、唯一無二の、美しい光を放っている。
アイツは私に、いつも憐れみの瞳を向ける。それは、時に私を、不愉快にする。
私には、父がいなかった。
幼い頃に両親が離婚して、今は母が女手一つで育ててくれている。駅のホームの反対側にいる男。アイツはそれを知らないはずなのに、いつも、あたかもそれがわかっているかのように私を見る。
気味が悪かった。母に相談しようとも、警察に連絡しようかとも思った。私自身が社交的な性格であるため、本人に直接言うこともできた。それでも、私はしなかった。
いつも私に向けられているその瞳は、もう一つの意味でも受け止められた。
それは、我が子を見つめる安らぎの瞳。
私があの男を通報できない理由は、私の中に存在する、幼い頃の記憶。今はもうモザイクがかかったようにはっきり見えないが、あの男に似た父が、私をそっと抱きしめていた。
ずっと隣にいられると思った。あの日、彼に告白して、OKを貰えてからずっと。ああ、これから私は、彼の隣で過ごすんだって。
でも違った。私は、彼に恋慕を抱いていた訳じゃなかったのだ。親愛を恋慕と錯覚して、自分は恋をしているのだと思ってしまった。
恋愛経験の少なさからくる、鈍臭い勘違いだ。だから私は、彼と少し距離を取った。
確認したかった。私は本当に、彼を恋人として見ていないのか。
結果は、正しかった。彼がいなくても、私は楽しく日々を過ごした。それだけではなく、彼のことを少し考えると「別れたい」なんていうどうしようもなく自分勝手な考えまで浮かぶ。このまま付き合っていても、彼を苦しめるだけ。
私は、交際関係を断ち切ることを決意した。それでも一歩踏み出せない。彼とは友達でもいなくなるのかもしれないという情けない感情が、私の行動を止める。
未だ彼との交際は続く。私はずっと彼の隣にいていいのかと、葛藤を抱きながら。
もっと知りたい。
言葉の意味、数式の理屈、歴史の移り変わり、科学の原理、言語のカラクリ、生き物のこと、人間のこと。全部全部、私は知りたい。
ただひたすら貪欲に、私は知識を食らう。腹の奥底にある知恵袋を満たすために、世の中を上手に行く抜くために、私は食らう。
その知識がいずれ、私の役に立ってくれると信じて、私は今日も、君に問う。
「君はどうしてそんなに知りたがりなの?」
なぜなら私は、もっと知りたいから!