T

Open App
3/1/2023, 12:19:42 PM

この世には必ず、みんなの受け皿となる人間がいる。

例えば上に立つ人間。意外にも彼らは、みんなの受け皿となっている場合がある。複数の異なる意見をまとめてみんなが納得する結論を出したり、互いに曝け出しあっている感情の間に入って仲を保ったり。受け皿になる人がいるから、うまく回ることもある。

僕は受け皿だ。周囲が抱く、欲望の受け皿。その皿に溜まっていくのは、誰かをいじめたいという欲望。

集団生活をしていると、必ず自分とは合わない人がいる。そういう特性なのか、人間という生き物はそんな相手を自分の世界から排除しようとする。自己中で、欲望の塊だ。だから、誰かが受け皿になってやらないといけない。

「でもそれ、別にお前じゃなくていいじゃん。てか、そんな奴らの皿にならなきゃいけない人間なんていてたまるかっての」

友人は言った。この世には、我慢しなければならない欲望もあるのだと。行き場のない欲望は、ストレスとしてどこか別の、何の批判も受けないやり方で発散してしまえばいい。それができない奴に気を使う必要はないのだ。

受け皿は、理不尽に応えてくれる道具ではない。
欲望は、正しい希望を叶えたいという欲であるべきだ。

2/28/2023, 10:25:47 AM

どこか遠くの街へ逃げたい。

高校で知り合った友達が、神妙な面持ちでそう告げた。
明るく愉快な性格のその友達も、彼女なりにストレスに感じることがあるらしい。特に最近では、幼馴染の女友達との関係を拗らせているのだそうだ。

幼馴染の彼女は、私も聞いたことがある。かなり自己中心的で、他人の私生活にまで口を出してくる。相談に対して何か提案しても、試すこともなく否定する。挙句、自分の思うようにいかなければ不機嫌になる始末だ。私も去年同じクラスで、何度かそういう目に遭うことがあったからか、その噂には随分すんなり納得できた。

友達も、毎日それに悩まされていたようだ。中学の頃なんかは、幼馴染の彼女が一緒に帰りたいと言うばかりに、放課後は用事で残る時すら、駄々をこねられた。高校は別にしようと考えていたが、結局ついてこられる。

嫌だと言えたらいいのにと、友達は頭を抱えた。しかしその後、いったい何をされるのかもわかったものじゃない。不幸にも、お互いの家は近い。

もううんざりだ。

今にも、壊れそうだった。私は言った。

じゃあ、逃げよう。逃げたいなら、逃げていい。私もついていくよ。

どこか、遠くの街に行こう。あなたの人生は、今いる場所で終わらせる必要なんてないのだから。

2/27/2023, 10:13:45 AM

現実逃避。何だか少しネガティブな言葉な気がする。

勉強、仕事、家事。世の中しなければならない物だらけだ。知らないうちに心に蓄積され、知らないうちに限界を迎えてしまう。「しなければならない」とは恐ろしい。

ネガティブな言葉は大抵、人々から嫌悪される。「現実逃避」も、現実から逃げているわけだから快く思う人はあまりいないだろう。

それの何が悪いのか。私はいつも、そう思う。

溜め込んで、溜め込んで、溜め込んで。そうして最後に壊れてしまうくらいなら、壊れないように吐き出せばいい。心が弱いだとか、自分に甘いだとか、そんな無責任な言葉を放ってくる人なんて放っておけばいい。我慢できる量なんて人それぞれだ。

趣味に没頭してみたり、好きな音楽を聴いてみたり、誰かと話したり、遊んだり。何でもいい。一度「しなければならない」から離れる。そしたら少しは、心が軽くなる。

現実逃避。「しなければならない」に支配された私たちを、唯一救い出す方法だ。

2/26/2023, 12:23:06 PM

あれは確か、去年の夏の初め。梅雨が明けたばかりの、僕の誕生日。学校からの帰り道だった。君は僕に、こう言った。
「夏休みに入ったらすぐ、ボクは外国に引っ越すんだ」
「…え?」
君は僕の、初めての友達で、何にも変え難い大切な存在。それだけに、その事実は僕の心に重くのしかかった。
「……君さぁ…それは今…今日言うことじゃないだろ…」
僕は泣きながら言った。
「…ごめん。誕生日プレゼント…には、ならないよな」
君も、泣いていた。

僕は家族と一緒に、君と君の家族を空港で見送った。アメリカに飛ぶその飛行機は、僕が人生で初めて見た飛行機。君はその飛行機の大きなお腹の中に、一度も僕を振り返ることもなく消えていった。僕とお揃いのリュックを背負って。

二日後、テレビでこんなニュースが流れた。

「アメリカ行きの日本旅客機、墜落。搭乗者のほとんどが…」

その先は見ていない。

アメリカからの速報だった。詳しく調べてみると、その事故で亡くなった人々の名前が、ネットに載せられている。引取先のない遺品の写真もあった。
君の名前と、僕が持っているものと同じリュックが、そこにはあった。

君は今、世界のどこにもいないけど、僕の心の中にいる。
僕は今、君のリュックを抱きしめた。

2/25/2023, 12:21:53 PM

中学三年の二学期。親友が学校に来なくなった。

いつもと同じだ。朝目が覚めてカーテンを開けると、灼熱の太陽が東側に顔をのぞかせている。たまに雨が降っていたり、朝から厚い雲に覆われていたりするが、それもまた日常の一部だ。

親友は、そんな日常の中から消えた。メッセージを送れば繋がるし、返ってきたその文面から何か悩みがあるようには思えない。イジメなんてされていたところを見たことはないし、そんな相談を、されなかっただけではと言われればそうなるが、されたことはない。

いつもと同じ日だ。空も、家族も、他の友達も。ただ、私の心の中に、物憂げな空が広がっている。親友の心もそうなのだろうか。

あるいは、もっと…。

Next