あれは確か、去年の夏の初め。梅雨が明けたばかりの、僕の誕生日。学校からの帰り道だった。君は僕に、こう言った。
「夏休みに入ったらすぐ、ボクは外国に引っ越すんだ」
「…え?」
君は僕の、初めての友達で、何にも変え難い大切な存在。それだけに、その事実は僕の心に重くのしかかった。
「……君さぁ…それは今…今日言うことじゃないだろ…」
僕は泣きながら言った。
「…ごめん。誕生日プレゼント…には、ならないよな」
君も、泣いていた。
僕は家族と一緒に、君と君の家族を空港で見送った。アメリカに飛ぶその飛行機は、僕が人生で初めて見た飛行機。君はその飛行機の大きなお腹の中に、一度も僕を振り返ることもなく消えていった。僕とお揃いのリュックを背負って。
二日後、テレビでこんなニュースが流れた。
「アメリカ行きの日本旅客機、墜落。搭乗者のほとんどが…」
その先は見ていない。
アメリカからの速報だった。詳しく調べてみると、その事故で亡くなった人々の名前が、ネットに載せられている。引取先のない遺品の写真もあった。
君の名前と、僕が持っているものと同じリュックが、そこにはあった。
君は今、世界のどこにもいないけど、僕の心の中にいる。
僕は今、君のリュックを抱きしめた。
2/26/2023, 12:23:06 PM