白いベッドの上に君が横たわっている。眠る姿は人形のようで、僕は怖くなって、君の頬を触った。あたたかい。君はまだここにいる。
君が家で倒れているのを発見されてからもう1ヶ月経った。お医者さんは、手は尽くしたと言っていた。後は君の気力の問題だと。
もしも君が目を覚まして、また笑ってくれるなら、僕は何だってするよ。良いことも悪いことも、何だってできるよ。
だから、目を覚ましてよ。
「ねえ、」
君の名前を呼ぶ。静かな病室に、僕の声と機械音だけが虚しく響いていた。
君だけのメロディ 後日書きます
雨音に包まれて 後日書きます
美しい 後日書きます
【君と歩いた道】
紫陽花が美しい遊歩道をひとりで歩く。ここは、君と歩いた道だ。
初めて君とここを歩いた日、僕は初めてのふたりきりで話すシチュエーションにドキドキしっぱなしで、紫陽花の美しさを味わう余裕なんてなかった。
2年目の僕は、その頃よりは少し余裕が生まれて、紫陽花の美しさも、それを見て笑う君の笑顔の眩しさも、しっかり目にうつしていられた。
それから毎年、紫陽花が美しい季節になると、僕と君はこの道を訪れた。この道には、数十年分の君との思い出が重なっている。
昨年、君を亡くして、初めての紫陽花の季節。ひとりで歩く道には寂しさもあったけれど、この場所に折り重なった君との思い出が、落ち込みそうになる僕の心を優しく掬い上げてくれた。
今、改めて、君へ。たくさんの思い出をありがとう。これからも君を愛してる。
【夢見る少女のように】
なんだか最近、世の中全体が暗い感じがする。
物価が上がって生活は苦しいし、人手不足で仕事は忙しいし、幸せを実感する瞬間が前より減っちゃったような。このままじゃ、未来はどんどん暗くなっていきそうな気がする。
夢見る少女のように、ただ純粋に明るい未来を思い描けたらよかったのに。
そう思いながら、布団の中で目を閉じる。いろんな不安が押し寄せるけど、せめて夢の中では幸せでいたいなあ、なんて思いながら、私は、夜の闇へと意識をゆるゆる溶かしていった。