「さあ行こう」と僕の手を引いて、君が連れ出してくれた世界は眩しかった。独りで殻にこもって丸まっていた僕に、その世界は最初眩しすぎて、躓いてしまうこともあったけれど、その度に君は僕に寄り添って励まして、僕を立ち上がらせてくれた。
そんな君はある日、僕に背を向けてしまった。君は「お前が嫌いになった」って言ったけれど、僕はその言葉を信じられなかった。信じたくなかった。でも、信じたくない心とは裏腹に、僕の体は固まって、君へ手を伸ばすことはできなかった。
それから1年。共通の友人から、君が遠くに旅立ってしまうという知らせを聞いた。もう会うことはできないかもしれないとも。
君と離れてからずっと、頭の何処かで君のことを考えていた僕は、耐えきれずに駆け出した。もう君に会えないなら、最後に一度だけ会いたかった。何を話すかなんて何も考えないまま、体が先に動き出していた。
そうして、旅立つ君の前に立った僕に、君は子どもみたいに泣きながら、本当のことを告げてくれた。「お前を嫌いになりたいくらい好きでつらかった」と。
僕らはきつく抱き合って、2人で泣いた。
君が旅立つことを僕は止められなくて、君もその選択を変えることはなくて、僕らはまた離れることになった。
でも、あの時君に「嫌い」と言われた時とはもう違う。
君は僕を想ってくれてる。それが頭の中にあるだけで、僕の心はあたたかかった。
ゲリラ豪雨が過ぎて、嘘みたいに空は晴れた。
眩しい陽射しが私のうなじを焼く。
水たまりに映る空は、本物を切り取ったみたいで、透き通って、蒼くて、美しかった。
明日はよく晴れて、雨も降らないという。きっとこの水たまりも、徐々に小さくなって消えてしまうのだろう。儚いなあ、と思った。だから、何か残しておきたい気持ちになって、私はスマホを取り出した。カメラアプリを立ち上げて写真を撮る。もう二度と同じ空はないから、今しかない空を映した今しかない景色の写真になった。
レインシューズを履いた私は、水たまりの空を乱さないように、慎重に避けて歩き出した。儚く消える水たまりに映る空を後ろに、私は、眩しい夏を歩いていた。
「ずっと一緒にいようね」
そう私に囁いたあなたの瞳に宿っていたのは、恋か、愛か、それとも依存か。
それをはっきりさせないまま、私はずっとあなたのそばで過ごしてる。
だって、私は、あなたのそばにいたいのよ。あなたの隣を誰にも譲りたくない。誰かに譲るくらいなら、この命を投げ出してしまいたい。それくらいあなたを愛してるの。
ねえ、あなた、ずっとそのままでいて。他の誰かや何かに目移りなんてしないで。ただ「ずっと一緒だよ」って無邪気に笑っていて。
そうしたらきっと私、ずっと誰も傷つけずに、あなたの隣で笑っていられるから。
約束だよ 後日書きます
私は、完全犯罪を成し遂げた。
土砂降りの雨の中、傘の雑踏に紛れ歩く。
何か月も前から準備してきた計画は、面白いほどにうまくいった。
思わず口元がにやけてしょうがない。それを他から見えないように、傘の中に隠す。
傘の中に、狂気を秘めて、道を歩く。傘の中の秘密は他の誰にもわからないまま。
この雨が止んで、傘を畳む時は、“普通”の仮面を完璧に被ってみせよう。
だから今だけ。誰にも見えない傘の中、私は湧き上がる狂喜をあらわにした。