思えば、あの人は太陽のようだった。
何もかもを照らすような明るい笑顔も、他人のために身を燃やす行為も。全部、太陽のようだった。
あの人が太陽なら、私は月だ。太陽の光を受けないと輝けない、勇気の無い月。
暗いところに住んでいた私なんかに関わって、良いことなんて何も無いというのに。あの人はそれに構わず、私を地上へと引き上げた。あの人の家は眩しくて、暖かい場所だった。
この世界が物語なら、きっとこの人が主人公なんだろう。
そう思った。
だけど
月と太陽は、ずっと一緒にはいられない。
私があなたの光を遮ってしまうのは嫌なんだ。
だからごめんなさい。
私はここを去ります。
***
書き置きを残して、私はそっと家を出る。
そして、あの人と出会った最初の場所に、あの暗い場所に向かった。
薄暗い地下街への入り口。
そこがあの人とのはじまりの場所だ。
いざここに立つと、どうしてもあの人暮らした日々を思い返してしまう。でも、こんなことではいけない。沈んだ気持ちに蓋をして、重い足を一歩踏み出す。
その瞬間だった。
突然、後ろから走る音がした。
弾かれたように振り向くと名前を呼ばれる。
暗い場所に再び、一筋の光が差した。
全てのはじまりはここで。
テーマ「太陽のような」
「ただいま」
静けさが広がるリビング、家に帰っても、彼女は居ない。
いつも『おかえり』と迎えてくれた彼女はもう居ない。
あの時私が手を差しのべていたらと、何度も何度も考えた。後悔した。でも、たとえ代わりに私が朽ちていたとしても自分みたいな身代わりでは何人いても足りない。彼女の代わりになんてなれない。
私が最期に彼女に向かって放った言葉は『生きろ』だ。
何が「生きろ」だよ。息をする、食べる、喋る、歩く、ただそれだけのことが、生きることが、彼女にとっての苦痛だった。身も心もボロボロだったのだ。
私はいつも隣に居た。
手を差しのべるチャンスはいくらでもあった。
でも、気づかなかった。気付かないふりをした。
私は、どうしようもない、役立たずだ。
僕は誰よりも強くなきゃいけない。
僕は他の人よりミブンっていうのが高いから、自分で自分を守れるようにしなきゃいけないんだって。じゃないと、僕は皆みたいに殺されちゃうらしい。だから僕は強くなくちゃ駄目なんだって。
それに、自分だけじゃないんだ。いつも一緒にいる人が拐われたり、殺されたり。そんなのもう慣れた日常。だけど、あの子だけは駄目。家族はみんな強いから何の心配も要らないけど、あの子は駄目だ。
いつも同じ場所にいるあの子。
真っ白い肌も、キラキラした目も、さくら色の唇も、とっても綺麗なんだ。でもなぜかあの子は誰にも優しくして貰えないから、僕しか友達がいないんだって。あんなに綺麗でいい子なのに、不思議だね。
お腹をすかせてる時にはおやつを持っていってあげるし、泣いている時には慰めてあげる。そうするとあの子は、お花みたいにふわっと笑うんだ。
それにあの子は優しいから、僕が死んだら泣いちゃうよね。だって、僕があげたお花が枯れたくらいで涙がでてたし。そんなことで泣かないでよって、ちょっと喧嘩になったっけ。でも次の日に花束を持っていったら、お家の人にバレちゃうからって一輪しか貰ってくれなかった。その時もちょっと喧嘩した。
あの子は隠してるつもりだろうけど、僕は分かってるんだ。あの子の家が歪んでるってことも全部調べた。(まあ僕の家も大概だけど) 僕が偉い人になったら助けてあげるんだ。だから、僕はまだ死ねない。それにその後だって守ってあげないといけないしね。
あの子が笑って生きていられるように。
僕は誰よりも強くなきゃいけない。
テーマ「誰よりも」
最悪な気分の日でも、私はお洒落をする。
お気に入りの派手な服を着て、先のとがった靴を履く。それだけで気分は晴れやかになるの。顔を真っ白に染めて深紅のルージュを大胆に塗る。人間って単純だから、口角を上げてにこにこしていれば明るい気持ちになれるわ。
袖に待機し、出番が来るのを待つ。
スポットライトを浴びて舞台に立つ。
ここまで来たら大丈夫。
後はもう、笑わせるだけ。
テーマ「お気に入り」