万緑

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「ただいま」

静けさが広がるリビング、家に帰っても、彼女は居ない。
いつも『おかえり』と迎えてくれた彼女はもう居ない。

あの時私が手を差しのべていたらと、何度も何度も考えた。後悔した。でも、たとえ代わりに私が朽ちていたとしても自分みたいな身代わりでは何人いても足りない。彼女の代わりになんてなれない。


私が最期に彼女に向かって放った言葉は『生きろ』だ。
何が「生きろ」だよ。息をする、食べる、喋る、歩く、ただそれだけのことが、生きることが、彼女にとっての苦痛だった。身も心もボロボロだったのだ。

私はいつも隣に居た。
手を差しのべるチャンスはいくらでもあった。
でも、気づかなかった。気付かないふりをした。

私は、どうしようもない、役立たずだ。

2/20/2024, 9:09:45 AM