万緑

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思えば、あの人は太陽のようだった。
何もかもを照らすような明るい笑顔も、他人のために身を燃やす行為も。全部、太陽のようだった。
あの人が太陽なら、私は月だ。太陽の光を受けないと輝けない、勇気の無い月。

暗いところに住んでいた私なんかに関わって、良いことなんて何も無いというのに。あの人はそれに構わず、私を地上へと引き上げた。あの人の家は眩しくて、暖かい場所だった。

この世界が物語なら、きっとこの人が主人公なんだろう。
そう思った。


だけど


月と太陽は、ずっと一緒にはいられない。
私があなたの光を遮ってしまうのは嫌なんだ。

だからごめんなさい。
私はここを去ります。


***

書き置きを残して、私はそっと家を出る。
そして、あの人と出会った最初の場所に、あの暗い場所に向かった。

薄暗い地下街への入り口。
そこがあの人とのはじまりの場所だ。

いざここに立つと、どうしてもあの人暮らした日々を思い返してしまう。でも、こんなことではいけない。沈んだ気持ちに蓋をして、重い足を一歩踏み出す。

その瞬間だった。


突然、後ろから走る音がした。
弾かれたように振り向くと名前を呼ばれる。


暗い場所に再び、一筋の光が差した。

全てのはじまりはここで。





テーマ「太陽のような」

2/22/2024, 11:13:47 PM