散った桜の下にいる死体を踏みつけながら、
私は前を向く。
私という名の、桜を咲かせるために。
「どれも同じに見えるんだけど?」
「全然ちがう!この子がいいの!」
私はこの子の大親友になった。
いつも私を「大切」「大好き」と言ってくれた。
「ずーっと一緒にいてね。」
極上の幸せは、黒と白の幕で覆われた。
お花で囲まれた大親友にそっと寄り添うように、永遠の眠りにつくことにした。
『選んでくれて、ありがとう。』
届かぬ想いは灰となり、空へと舞い上がった。
私ばかりが気にしていてバカみたい。
いや、
気にしないほうがバカだ。
自分を卑下するのはやめよう。
バカみたいに。
あの頃、きっとこの楽しさは永遠だと思っていた。
私達の推しの誕生日だから。
ただそれだけ。
街のケーキ屋に行き、一番小さいサイズのホールケーキを買い、自転車を二人乗りして、彼女の家へ向かう。
今でいうところの、本人不在の誕生日会をおこなうために。
放課後、自転車の荷台に私をのせ、彼女はペダルをこいだ。
雨の中、傘もささずに。
制服のスカートのヒダがとれるほどの、まれにみる大雨の日だった。
「うちらがこんなにずぶ濡れになっててもさー、本人知らないんだよ?」
「ほんと、何やってんだって感じだよね。」
「まぁ、これが楽しくてやってんだけどさ!」
雨の音にかきけされないように、いつもより大きな声で自転車をこぐ彼女に話しかける。
「来年も、」
と言いかけて私はやめた。
彼女と私は別の道に進む。
同じ制服を着て、自転車を二人乗りすることなんてもう永遠に来ないのだ。
大雨のせいで誰もいなくなった通りを二人で駆けていく。
「来年も、お祝いしようよ!私の家で!」
坂道にさしかかり、立ちこぎをしながらペダルをこぐ彼女は文字通り、前しか向いていなかった。
「うん、もちろん!」
少なくとも、彼女の未来には私がいる。
私の未来にも彼女がいた。
私達はずぶ濡れで、ケーキも箱が潰れてかたむいてしまっていた。
二人ぼっちで開催した、本人不在の誕生日会はとてもとても、楽しかった。
彼と、私達の未来はきっと明るく楽しいものだと、信じて疑わなかった。
20年以上すぎて、彼は芸能界からいなくなった。
それよりも前に私と彼女の関係も、なくなった。
約束していた「来年の誕生日会」は開催されなかった。
卒業後、連絡を取り合っていたが、彼女が体調を崩してしまった。
ほどなくして、彼女が精神を病んで入院し、療養中だと別の友人からきいた。
あの頃、二人ぼっちだった私達は、一人ぼっちになった。
彼女が抱えた孤独をわけることも出来ずに、私はただ自転車の荷台に乗ってるだけに過ぎなかった。
キラキラ。
ピンク。
おもちゃ箱。
ー孤独。
マイク。
煙。
スポットライト。
ー孤独。
腕の中。
心音。
呼吸。
夢が醒める前にー。