「私を忘れないで」
小さく青いその花を見て彼女がそう言ったのは一体いつの事だっただろう。花の事なんて全くわからない俺は、それがその花の花言葉だなんて思いもしなかった。
戸惑う俺に彼女はただ微笑んで、何でもないと笑ってみせた。その時の彼女の寂しそうな笑顔を、俺はきっといつまでたっても忘れることができないと思う。
「きみを失ってから、もう季節が一回りしたよ」
――返事はない。
沈黙を貫く形だけの墓標に、小さな青い花の束を供える。
愛の言葉と共に。
【勿忘草】きみのことを忘れないよ
あなたと付き合いはじめてから、私は安心と不安の両方を手に入れた。
【安心と不安】
「大丈夫?」
そう言ってきみはいつも私に手を差し伸べてくれる。いつだって私に優しくて、私にとって太陽みたいな人だった。
ある時、知り合いの男が私に言った。
「あいつは危険なやつだ、今すぐにでも縁を切った方がいい」
「そんなわけない!」
「おまえは知らないかもしれないが、あいつは、」
聞きたくないと私は言った。私のただ一人の友人を悪く言う言葉なんて、聞きたくなかった。
しばらくして、私に忠告してきたその男が事故に巻き込まれて死んだと聞いた。
それから、私の周囲では不幸が続いた。偶然だろうが、身近な不幸が重なったことで私はだいぶ参っていた。
眠れない日が続いたある日。その日は私の父の葬儀の日だった。
父もまた、私の身近な不幸のひとつで、通り魔にあって命を落とした。
照りつける強い日射しの中、父の棺を見送りながら、私は気が遠くなりその場に倒れた。
「大丈夫?」
倒れた私に手を差し伸べるきみ。
きみは眩しい太陽を背にしていたから、私にはきみの表情が見えなかった。
【逆光】光は時に闇を隠す
わたしは猫で、陽だまりでぬくぬくひなたぼっこ。
お気に入りのお散歩コースをとことこ歩くと、見知った顔のおばあちゃんがおやつをくれる。おばあちゃんがくれるおやつはいつも美味しいから、おやつのお礼になでなでさせてあげる。
それからまたとことこ歩いていつもの公園へ。
広い公園の片隅で、お友だちの猫とおしゃべりしてそれから一緒に遊ぶんだ。
【こんな夢を見た】猫になった夢
きみと過ごせるならいつだって
【特別な夜】