すべてを失っても
君の左隣にいたい
もしも世界が終わるなら
僕が君を隠してしまおう
/9/19『もしも世界が終わるなら』
ほどけた靴紐を結び直すように
あなたとの縁も結び直せたらいいのに
/9/18『靴紐』
「行く、行かない、行く、行かない……」
花占いの花の代わりに足元の草を抜きながら、太一はぶつぶつ唱えていた。
今は体育の時間。膝を抱えたいわゆる体育座りでクラスごとに裏庭に整列している。
今から校内の草むしりをしようというところだが、太一の行動はいち早く草を取ってやろうという殊勝な心掛けからではもちろんない。
「おい、何やってんだよ」
太一の後ろから良平が声をかけてきた。先生の説明も聞かず、何かを呟きながらぼんやりと草をむしっているのだから当然だ。
「え?なに?」
「なにはこっちのセリフだよ。まだ始まってないぞ」
「あー、うん」
ぼんやりとした太一の返事に心配になった良平は、各自各場所に解散となった後、改めて声をかけた。
「なあ、どうしたんだよ」
「どうもしないよ?」
「どうもしないわけあるか。なんか呟いてただろ」
「あー、聞かれちゃったか」
気まずそうに、照れくさそうに後ろ頭をかく太一に、良平は頭上に疑問符を浮かべた。
「おれさ、佐野さんに告白しようか迷ってんだよね」
「はあ」
「で、勇気が出ないから、花占いならぬ草占いしてたわけ」
「そんで?」
「まだ告るか答え出てない……」
「なんだよそれ!」
足元の草を抜きながら白状した太一の、しかし釈然としない答えに良平はツッコんだ。
「あんだけブツブツ言いながら答え出てねーの?早く告っちまえよ!」
そして、もじもじもぞもぞ草を抜くでもなくいじっている太一の背中を励ますように叩いた。
/9/17『答えは、まだ』
きみと旅をした。
きみの心と旅をした。
すでに遠くなってしまった、もう戻れない距離。
手繰り寄せたくても、きみの心ははるか彼方、海の向こう。
僕の心は波にさらわれて、どんどんきみから引き離されて。
気が付けば僕は対岸にいた。
遠い遠い対岸。
一度岸についてしまえば、あとはそこから手を振るだけ。
波にたゆたうことも出来ず、きみに少しも近づけない。
粉々になってしまった僕の心は、まだ怪我をしてしまいそうなシーグラスとなって砂浜に落ちている。
/9/16『センチメンタル・ジャーニー』
「ねぇ、月がキレイだよ。見える?」
会話が途切れたと思った恋人から、ぽつりとそんな言葉が聞こえた。
スマホ越しに聞こえる声は、どこかうっとりとしている。
恋人の言葉に空を見上げると、確かに感嘆が漏れそうな綺麗な満月が浮かんでいた。
「ほんとだ。綺麗だね」
「見えた?凄いよね。まんまる」
たった2週間の出張。だけど恋人の声にもうホームシックになってしまった。
遠距離でも、こうして近くに存在を感じさせることが余計にそうさせるのか、ぽつりと言葉が漏れてしまった。
「寂しいな」
言ってしまってから、しまったと思ったがもう遅い。
「何言ってるの。たった2週間でしょ。帰る日会えるじゃん」
恋人が笑うように叱咤する。
仕事をしていたら2週間などすぐに経ってしまい、1ヶ月会えないこともざらにあるのに、どうしてかこの2週間がとても多く感じてしまった。
「そうだけど……」
「遠い遠いって言ってるけど、県1個またいだだけでしょ。同じお月様だって見えてる。近いよ」
恋人は慰めるように言ってくれた。
そうだ。同じ月を見られている間は、そう遠くない距離にいるのだった。かぐや姫のように月と地球くらい離れているわけではない。
「うん、ありがとうね」
「会えるの楽しみにしてる。お仕事頑張って」
慰められて少し元気が回復したのを悟られたのか、電話口でふふと笑われた。
/9/15『君と見上げる月…🌙』
/9/14『空白』
からりと晴れた空は
隠されていた今までの分を取り戻すかのように
太陽がサンサンと照っている
昨日までの大雨が嘘のようだ
風が重たい雲までも持っていってしまったかのように
雲が見当たらない
「よし、お布団干そう!」
ジメジメした湿気とも
これでしばらくオサラバだ
/9/13『台風が過ぎ去って』
コーヒーカップの底に残された茶色い砂糖みたいに
私の心は置いてけぼり
無機質に閉められたドアは
今後会うことのない2人を示唆している
「自分のマグカップぐらい、持っていけばいいのに」
/9/12『ひとりきり』