鐘の音が響き渡る。
たくさんの羽を休めていた鳥がその音に驚いて飛び立っていった。
リン、ゴーン。リーン、ゴーン。
部屋中に。耳に頭に響く。それもそのはず。鐘のすぐそばに間借りして暮らしているのだから。
はじめは心臓が止まりそうに、というか音が体中に響いて痛いほどだったが、もう慣れた。
おれの暮らしはここの手伝い。
朝の掃除、炊事、洗濯に家畜のエサやり。何でもする。
服を着替えながら、おれに似たような暮らしのプリンセスの話をつい先日聞いたことを思い出した。
(ああでも、あれはまだプリンセスじゃない頃だっけ?灰かぶってた時か)
羨ましいとは思わない。
おれには魔女の手助けなんていらないからだ。
誰かの手を借りて幸せを掴むくらいなら、おれはこの暮らしのままでいい。
幸せは、自分の手で掴んでこそだ。
靴紐を結んで、割れた鏡の破片で髪の毛の乱れを直した。
おれにとってこの鐘の音は、一日のはじまり。
早くここを出てやるという意志の再確認。
背中を押してくれる音だ。
「よっし、今日もやりますか!」
/8/5『鐘の音』
しっかり構成したり
ちゃんと校正したり
そういうことは今も前も出来てなくて
とりあえず書き連ねているだけだけれど
そういうことでも
積み重ねていけば何かの訓練にはなると思っている
つまらないことを
つまったものにするために
少しでもちりつもに
その中から原石を探して
磨くことが今の目標
/8/4『つまらないことでも』
「おかえり」
って声を聞かなくても、
君のその安らかな寝顔だけで
ボクは十分出迎えられているんだよ
だから
「ただいま」の代わりに
君の髪を撫でて額にキスを落とすのが
ボクと君の
「おやすみ」
明日は休みだから、
久しぶりにホットケーキでも作ろうかな
「キッチンをめちゃくちゃにするな!」って
君に怒られそうだけど。
/8/3『目が覚めるまでに』
家の外では砂埃が舞っている。
窓の外を眺めても、昔のような木々や建物は見えず、砂塵が我が物顔で通り過ぎるだけだ。
二年前から突然起こり始めた砂嵐。
人々は夜の間だけ止むそれに合わせて、生活を変えた。
今では真逆の意味となった「昼夜逆転」。ぼくは今、世間の人々とは正反対の生活――昼夜逆転した生活をしている。
お日さまが昇っている間に置き、夜に眠る。母さんからは、早く生活を正しなさいと言われるが、これまで12年間この生活をしてきたんだ。今更変えられるはずがない。
猛威をふるっていた砂塵が止み始め、さらさらと砂のカーテンが地面に落ちていく。夜が来た。
今日は満月のようだ。窓越しにのぞく白い光がとても明るい。
雲ひとつない空は明日が晴天であるということを教えてくれている、と昔誰かに教わった。
それならば、とぼくはその誰かに教わった方法を思い出す。指を組み、目をつむり、月を想う。
(お月さま。明日もし晴れるのならば、久しぶりに太陽が見たいです。真っ青な空に輝く、太陽が見たいです)
風もない静かな夜。目を開けると、月のそばの星が瞬いた気がした。まるで返事をするかのように。
/8/1『明日、もし晴れたら』
「ただいま」
家に帰ると、まっすぐ屋根裏部屋に行く。
近頃はもっぱらぼくの部屋になっているそこに入ると、空気を入れ替えるために天窓を開けた。
一台置いた机の傍らにバッグを置き、ぼくは早速作業に取りかかる。
階下から声が聞こえた。
小さな妹と遊んでほしいとのことだったが無視をした。
可愛い妹の相手はしてやりたいが、お願いだから、これが終わるまでは一人にしてほしい。
ノートにえんぴつを走らせ、思案しては消してまた書くことの繰り返し。
一週間前から、もうすぐ誕生日の妹に贈る物語を書いている。
喜んでくれるといいなあと妹の笑顔を思い浮かべながら。
/7/31『だから、一人でいたい。』