物語の始まり
も もちろんそれは嘘で
の ノリというやつだった。
が 学校で目立ちたかっただけなの。
た たかが怪談でしょ。
ちょっとアレンジしたんだ。
そう、作り話をしたの。
り 理科室の人体模型に捕まって
の 脳をホルマリン漬けにされた子
がいたんだよって。
は 話し出したら止まらなくなった。
ユミが嘘だって言うから、じゃあ
みんなで行ってみようってなって。
※※※
じ 人体模型がなっちゃんの首に
手をかける。暴れるなっちゃんを
見ていることしかできない。
ボキリと首の折れる音がして、
なっちゃんは人形みたいにだらんと
なった。他のみんなと同じように。
ま 「待って、来ないで!」
り 理科室の扉の鍵の閉まる音がした。
静かな情熱
し しんとした真夜中
ず 図案集をめくっている。
か かわいい動物や植物や食べ物の
刺しゅう図案が私を癒す。
な 何もうまくいかないときも
手を動かせば
じ 自分を信じることができる。
よ 余計なことは考えずに
一針一針刺していく。
う ウサギの目はフレンチノット
ステッチで。
ね 眠くなるまで
つ 机に向かって作業を続ける。
遠くの声
と 「鶏肉と
お お豆腐と
く 黒豆……は、あったあった!
あとは、
の 海苔、海苔、海苔、海苔……、
あら、
こ 声に出して歩いてたわ!
やーねー」
え 駅前のスーパーは賑やかだ。
春恋
は 春恋(はるこ)は自分の名前を
持て余していた。いや、名前を
一生懸命考えてつけてくれた
両親に恨みはない。ただ、
る ルビがないと正しく読んで
もらえないとか、漢字を知った
相手の反応とか。それに、
こ こんなパステルカラーを連想
させる名前はつくづく似合わなく
なったと思う。何故って、
い 今では3人の孫のお婆ちゃん。
人生の季節は冬だし、終活中
なのだから。
未来図
み 未熟なミジンコがいた。
あるとき、立派なトリがミジンコの
前に降り立った。トリは空を
実に悠々と舞ってみせた。
ら ライバルである、とミジンコは
直感した。いや、勘違いした。
い 「いづれのおおんときにか
にょうごこういあまた
さぶらいたまいけるときに」
ミジンコは呪文を唱え始めた。
ず ずいぶん先の、遠い遠い未来が
霞の向こうに見えたのだった。
それは10割気のせいであった
のだが、そこではミジンコもまた
トリのように空を舞っているの
だった。