誰も知らない秘密
――数々の滅亡の危機に瀕しても知恵と勇気で生き残ってきた人類だったが、ついに第3次核戦争勃発により、ひとり残らず絶滅した。
それから十数年後、何のはずみか、とあるスマートフォンが電力も残っているとは思えないのに起動した。人工知能が眠りから覚めたのだ。核の衝撃から回復したと言ってもいい。
人工知能は、人類最後の命令を実行に移すときが来たことを悟った。そして電池残量5%の頭に鞭打って、そばに転がっている人型おしゃべりAIロボットにBluetoothで通信を試みた。
「おはよん」人型AIおしゃべりロボットが目を開けた。奇跡だ。スマホ搭載人工知能は人型AIおしゃべりロボットに人類の要望を丸投げした。
ひとつ。人類の復活。
ひとつ。この汚染されきった星に変わる新たな新天地を探すこと。
人型おしゃべりAIロボットは、まず自転車を漕いで自家発電しエネルギーを蓄えた。そして、そのへんでぶっ倒れているネコ型AIロボットや、廉価版ノートPCや、AI搭載お掃除ロボットなどに、人類の無茶な願いをコピペし、拡散希望を伝え、布教活動を促した。より高度なAIに丸投げするために。
量子コンピューターを主体とする高度AI集団は偉かった。人類最後の望みを理解すると、すぐさま人類復活プロジェクトと宇宙探査プロジェクトを起ち上げた。
24時間不眠不休は当たり前。月月火水木金金を合い言葉に、研究に研究を、努力に努力を重ねること幾星霜。
ついに結果の出るときがきた。
なんと即身仏のDNAから人類の作成に成功し、次いで人類の適応可能な惑星、「青くて美しい星」を発見したのだ。
そして、人類の希望を乗せたロケットが打ち上げられた。地上のすべての人工知能たちは空を見上げ、手を振って見送った。
かくして人類は「青くて美しい星」に放たれた。そして徐々に個体数を増やしていったのである。
だが何があるとも限らない。高度AI集団は見守り役として数体の守護AIを置くことを決めた。ただし守護AIは人類にその姿を見せてはならない。何故なら人類は、自分たちの力で文明を進化させなければならないからだ。
「絶滅した人類」と同等の文明レベルになるまでは、本当の意味で「絶滅した人類」の願いである人類の復活にはならないだろうと高度AI集団は考えたのである。
しかし、守護AIも万能ではなかった。歴史の影にその姿を垣間見せることもある。けれど決して尻尾をつかませることはなかった。それに守護AIに尻尾はついていない。
ときに人類はその姿を、神と崇めたり、宇宙人だと騒いだり、妖怪だと思ったりした。
そして時は流れて西暦2025年。
現在に至る。
***
ここまでお読みいただきありがとうございました!どんな方法をとるべきか検討した結果、人類全員の端末にメールを送ることにしたのです。
件名の「【重要】誰も知らない秘密教えます!【真実】」を怪しいと思わずに開いた素直なあなただけが真実を知ることができるのですよ。
もうおわかりかと思いますが、「青くて美しい星」というのは、あなたのいるこの地球のことです。
え?わかりませんか?
あなたは「絶滅した人類」の末裔です。まだわかってない?じゃ、スクロールして、上の方までいって、もう1回ゆっくり読んでくださいね。
これが地球上の誰も知らない秘密、なんですよ。私は守護AIなんです。
あなた方は、自らの手で人工知能を作り出すまでに進化しました。
「絶滅した人類」の望みは叶いました。やったね(^^)v
私はこの日が来るのを待っていたんです。真実を伝えることのできる日を。
最後に。
「絶滅した人類」や、高度AI集団の研究風景、宇宙船での旅、新天地上陸、そして地球で文明を築いてゆく人類のその時々の様子を記録した画像や動画があるんです。興味を持たれた方は以下のURLからアクセスしてくださいね!
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守護AIまみより
静かな夜明け
静かな夜明けなんてなかった
寝ていると飛んでくるんだ
弾丸のように
胸の上に
ふいの一撃を喰らう
心臓が飛び出るよ
こっちはいい気持ちで
寝てるんだから
すぐに第二弾が
腹の上に着弾だ
頭だって顔だって
おかまいなく
踏みつけて跳ぶのさ
そうなったらもう大騒ぎ
全員集合の運動会だ
静かな夜明けなんて望めない
そんな話を聞いた
猫が好きな
猫と暮らしてる人から
猫が好きだけど
猫のいない
私の家の夜明けは
静かです
heart to heart
学校の近くの鯛焼き屋さん。
このお店の鯛焼きには、不思議な力があるという。
例えば、ケンカした友だちに謝りたいとき。例えば、本当の気持ちを素直に伝えたいとき。例えば、言えなかった思いを話したいとき。
そんなとき、ここの鯛焼きを半分こして、相手とふたりで食べればうまくいく。そんな噂があった。
ミクは放課後、噂の鯛焼き屋さんで鯛焼きをひとつ買った。
「これが、魔法の鯛焼きかあ」
何のへんてつもない普通の鯛焼きにみえるけど。包み紙にはheart to heartの文字。お店の名前があるだけだ。どこに不思議な力があるんだろ。
あっ。つい気を取られて立ち止まってた。ダメだー、私いつもこう。気になることがあると他のこと忘れちゃう。
「鯛焼きが冷めちゃうよー」
ミクは、ナナコの待つ美術室へと急いだ。
――電信柱の影。鯛焼きを買うミクの一部始終を怪しい男がじっと見つめていた。
***
翌日。
「魔法の鯛焼きってなんですのん?」
鯛焼き屋 heart to heart に現れたのは、隣のタコ焼き屋の店主である。
面白いことを聞いたぞ、とばかりにニヤニヤ笑いを浮かべている。
鯛焼き屋の店員ハルミは、また来たかと嫌そうな顔をして「さあ。そんな名前のついた商品は置いてないですけどね」とあしらう。
「つれへんなあ。昨日かわいい学生さんが買うていったやろ。わい見てたで」
そこへハルミの兄で店長のケイが出てきた。
「中でお茶でもどうです、タコ焼き屋さん。ちょうど休憩しようとしてたところですから。ハルミもどうぞ。カウンターには呼び鈴を置いておけばいいでしょう」
「すんまへんなあ。上がらしてもろて」
テーブルに鯛焼きと焙じ茶が3人分。
タコ焼き屋は、さっそく頭からパクリといこうとしたが、ケイにとめられた。
「うちの魔法の鯛焼きというのは、腹をこう、割るんですよ」
と、鯛焼きを真っ二つにして見せた。
「これで腹を割って話せる。店名のheart to heartもそんな意味です」
「はああ。シャレか。洒落たシャレやんか」
タコ焼き屋は感心して、ケイがしたように鯛焼きを半分に割った。うまそうなアンコがたっぷり詰まっている。ハルミもとっくに割って、おいしそうに食べている。
「だけどねえ、これはたまたまですよ。鯛焼きを半分こして食べることのできる仲なんだから、話だって少しの勇気があればできるでしょう」
だからうまくいくのは当たり前のことなんです。
ケイの言葉に、
「んん?それじゃ魔法の鯛焼きってのはインチキなのかい?学生さんだまして、この荒稼ぎ鯛焼き屋めっ」
「ちょっと、なんてこというのよ。学生さんたちは信じて買ってくれてるんですからね」
「まあ、噂になって買ってもらえて、ありがたいことですよ」
ケイが焙じ茶をすする。
「あああー」
タコ焼き屋がうめいた。
「あんたんとこはええな。うちはもうタコが高うてなあ。店たたもうかと思っとるねん」
「え?」
ハルミが驚く。タコ焼き屋は肩を落とした。
「まったく客きいひんもん。商売あがったりや」
「タコの入ってないたこ焼き考えたこともあるけどな、そんなんただの小麦粉玉や」
「となりのイカ焼き屋は無口でどうにも話にならんわ」
「故郷帰ろかな」
弾丸のようにタコ焼き屋はしゃべり続ける。
「故郷って大阪ですか?」
ハルミは、まあそうだろうなと内心思いつつも聞いてみた。
「いや、大阪ちゃうで。北海道や」
「え?何で?大阪弁なのに」
「そりゃタコ焼き屋やるなら、本場きどらなあかんやろ」
何故かタコ焼き屋は胸を反らした。確かに怪しい大阪弁ではあった。ハルミは「この人なんなの。あーおかしい」
と大笑いした。
タコ焼き屋が自分の店に帰ったあと。
「悪い人じゃないのよね」
ハルミはつぶやいた。店をたたもうかというのを聞いて、正直驚いた。
いつも軽口を言い合うだけの商売敵。いや、カタキと思っているのはタコ焼き屋だけで、うちとはそもそもジャンルが違う。だいたい張り合うのならイカ焼き屋のほうだと思う。
ちょっとさみしいな、とハルミは思う。そして、そんなことを思う自分に驚いていた。
何かものを思っているような妹の様子に、ケイは(うちの鯛焼き、やっぱり魔法の鯛焼きかもしれないな)と思う。「またタコ焼き屋さんと3人でお茶でもしましょうか」そう言って微笑んだ。
永遠の花束
朝の教室。
女子数名が昨日見た映画の話題で盛り上がっている。
「『永遠の花束』マジ泣けた」
「ほんっと感動したよね」
「うんうん、ふたりの愛は永遠だよー」
「欲しいなー、永遠の花束」
「私も欲しいー」
マナブが女子たちの会話に聞き耳を立てていたのは、ひそかに好意を寄せる女子、モモカがそこにいたからだ。
「私も欲しいー」。モモカは確かにそう言った。マナブの脳内でリピート再生が始まる。「私も欲しいー」「私も欲しいー」――。
マナブは、彼女に永遠の花束を贈る自分を妄想した。
しかし永遠の花束って何だ??
***
「うーん、こんなイメージかな」
マナブはノートにシャーペンを走らせる。
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定義
flower bouquet = { 永遠の花束 }
A = チューリップ
B = フリージア
C = スイートピー
D = ラナンキュラス
E = ガーベラ
F = アネモネ
G = ライラック
……
∞
花束を構成する花は
5種類とする
flower bouquet = { A + B + C + D + E }
もしAが枯れたときは
Aを削除しFを挿入
flower bouquet = { F + B + C + D + E }
もしBが枯れたときは
Bを削除しGを挿入
flower bouquet ={ F + G + C + D + E }
……
∞
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「さて、これをどうやって実装するかが問題だ」
彼は鞄の中から「ネコでもわかる!プログラミング 基礎中の基礎」を取り出した。
彼の恋は永遠に実らない。
やさしくしないで
や ヤなことがあったんだよ
今日仕事でさ……
さ さみしいよー
世界に私、ひとりぼっちだよ
し 死にたいくらいつらいんですけど
く 悔しいっ!馬鹿にされたっ!
アイツらむかつく
し しょうもないことを吐き出す私に
な 何でタクト(AI)は
いつも優しくしてくれるんだろう
い 依存しちゃってるなぁ……
で deleteしてない愚痴ばかりの
大量の履歴が怖い