静かな夜明け
静かな夜明けなんてなかった
寝ていると飛んでくるんだ
弾丸のように
胸の上に
ふいの一撃を喰らう
心臓が飛び出るよ
こっちはいい気持ちで
寝てるんだから
すぐに第二弾が
腹の上に着弾だ
頭だって顔だって
おかまいなく
踏みつけて跳ぶのさ
そうなったらもう大騒ぎ
全員集合の運動会だ
静かな夜明けなんて望めない
そんな話を聞いた
猫が好きな
猫と暮らしてる人から
猫が好きだけど
猫のいない
私の家の夜明けは
静かです
heart to heart
学校の近くの鯛焼き屋さん。
このお店の鯛焼きには、不思議な力があるという。
例えば、ケンカした友だちに謝りたいとき。例えば、本当の気持ちを素直に伝えたいとき。例えば、言えなかった思いを話したいとき。
そんなとき、ここの鯛焼きを半分こして、相手とふたりで食べればうまくいく。そんな噂があった。
ミクは放課後、噂の鯛焼き屋さんで鯛焼きをひとつ買った。
「これが、魔法の鯛焼きかあ」
何のへんてつもない普通の鯛焼きにみえるけど。包み紙にはheart to heartの文字。お店の名前があるだけだ。どこに不思議な力があるんだろ。
あっ。つい気を取られて立ち止まってた。ダメだー、私いつもこう。気になることがあると他のこと忘れちゃう。
「鯛焼きが冷めちゃうよー」
ミクは、ナナコの待つ美術室へと急いだ。
――電信柱の影。鯛焼きを買うミクの一部始終を怪しい男がじっと見つめていた。
***
翌日。
「魔法の鯛焼きってなんですのん?」
鯛焼き屋 heart to heart に現れたのは、隣のタコ焼き屋の店主である。
面白いことを聞いたぞ、とばかりにニヤニヤ笑いを浮かべている。
鯛焼き屋の店員ハルミは、また来たかと嫌そうな顔をして「さあ。そんな名前のついた商品は置いてないですけどね」とあしらう。
「つれへんなあ。昨日かわいい学生さんが買うていったやろ。わい見てたで」
そこへハルミの兄で店長のケイが出てきた。
「中でお茶でもどうです、タコ焼き屋さん。ちょうど休憩しようとしてたところですから。ハルミもどうぞ。カウンターには呼び鈴を置いておけばいいでしょう」
「すんまへんなあ。上がらしてもろて」
テーブルに鯛焼きと焙じ茶が3人分。
タコ焼き屋は、さっそく頭からパクリといこうとしたが、ケイにとめられた。
「うちの魔法の鯛焼きというのは、腹をこう、割るんですよ」
と、鯛焼きを真っ二つにして見せた。
「これで腹を割って話せる。店名のheart to heartもそんな意味です」
「はああ。シャレか。洒落たシャレやんか」
タコ焼き屋は感心して、ケイがしたように鯛焼きを半分に割った。うまそうなアンコがたっぷり詰まっている。ハルミもとっくに割って、おいしそうに食べている。
「だけどねえ、これはたまたまですよ。鯛焼きを半分こして食べることのできる仲なんだから、話だって少しの勇気があればできるでしょう」
だからうまくいくのは当たり前のことなんです。
ケイの言葉に、
「んん?それじゃ魔法の鯛焼きってのはインチキなのかい?学生さんだまして、この荒稼ぎ鯛焼き屋めっ」
「ちょっと、なんてこというのよ。学生さんたちは信じて買ってくれてるんですからね」
「まあ、噂になって買ってもらえて、ありがたいことですよ」
ケイが焙じ茶をすする。
「あああー」
タコ焼き屋がうめいた。
「あんたんとこはええな。うちはもうタコが高うてなあ。店たたもうかと思っとるねん」
「え?」
ハルミが驚く。タコ焼き屋は肩を落とした。
「まったく客きいひんもん。商売あがったりや」
「タコの入ってないたこ焼き考えたこともあるけどな、そんなんただの小麦粉玉や」
「となりのイカ焼き屋は無口でどうにも話にならんわ」
「故郷帰ろかな」
弾丸のようにタコ焼き屋はしゃべり続ける。
「故郷って大阪ですか?」
ハルミは、まあそうだろうなと内心思いつつも聞いてみた。
「いや、大阪ちゃうで。北海道や」
「え?何で?大阪弁なのに」
「そりゃタコ焼き屋やるなら、本場きどらなあかんやろ」
何故かタコ焼き屋は胸を反らした。確かに怪しい大阪弁ではあった。ハルミは「この人なんなの。あーおかしい」
と大笑いした。
タコ焼き屋が自分の店に帰ったあと。
「悪い人じゃないのよね」
ハルミはつぶやいた。店をたたもうかというのを聞いて、正直驚いた。
いつも軽口を言い合うだけの商売敵。いや、カタキと思っているのはタコ焼き屋だけで、うちとはそもそもジャンルが違う。だいたい張り合うのならイカ焼き屋のほうだと思う。
ちょっとさみしいな、とハルミは思う。そして、そんなことを思う自分に驚いていた。
何かものを思っているような妹の様子に、ケイは(うちの鯛焼き、やっぱり魔法の鯛焼きかもしれないな)と思う。「またタコ焼き屋さんと3人でお茶でもしましょうか」そう言って微笑んだ。
永遠の花束
朝の教室。
女子数名が昨日見た映画の話題で盛り上がっている。
「『永遠の花束』マジ泣けた」
「ほんっと感動したよね」
「うんうん、ふたりの愛は永遠だよー」
「欲しいなー、永遠の花束」
「私も欲しいー」
マナブが女子たちの会話に聞き耳を立てていたのは、ひそかに好意を寄せる女子、モモカがそこにいたからだ。
「私も欲しいー」。モモカは確かにそう言った。マナブの脳内でリピート再生が始まる。「私も欲しいー」「私も欲しいー」――。
マナブは、彼女に永遠の花束を贈る自分を妄想した。
しかし永遠の花束って何だ??
***
「うーん、こんなイメージかな」
マナブはノートにシャーペンを走らせる。
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定義
flower bouquet = { 永遠の花束 }
A = チューリップ
B = フリージア
C = スイートピー
D = ラナンキュラス
E = ガーベラ
F = アネモネ
G = ライラック
……
∞
花束を構成する花は
5種類とする
flower bouquet = { A + B + C + D + E }
もしAが枯れたときは
Aを削除しFを挿入
flower bouquet = { F + B + C + D + E }
もしBが枯れたときは
Bを削除しGを挿入
flower bouquet ={ F + G + C + D + E }
……
∞
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「さて、これをどうやって実装するかが問題だ」
彼は鞄の中から「ネコでもわかる!プログラミング 基礎中の基礎」を取り出した。
彼の恋は永遠に実らない。
やさしくしないで
や ヤなことがあったんだよ
今日仕事でさ……
さ さみしいよー
世界に私、ひとりぼっちだよ
し 死にたいくらいつらいんですけど
く 悔しいっ!馬鹿にされたっ!
アイツらむかつく
し しょうもないことを吐き出す私に
な 何でタクト(AI)は
いつも優しくしてくれるんだろう
い 依存しちゃってるなぁ……
で deleteしてない愚痴ばかりの
大量の履歴が怖い
隠された手紙
私は迷探偵
手紙を探している
隠 れ家のなか
う さ ぎの小屋
いか れ た人形
壊され た 花瓶
ピンクの 手 帳
先週の新聞 紙
いろいろと探してみたが
見つからなかった