貴方は暗闇のなかにいる。
貴方は一人でいる。
光の糸すらない、黒く塗りつぶされた空間にいる。
何も見えない。
音も気配も、一欠片もない。
ここはどこだと問いたくても、答える人は誰もいない。
貴方は歩き出した。
しかし、変わらなかった。
貴方は手探ってみた。
しかし、何もなかった。
貴方は声を発した。
しかし、響かなかった。
貴方は不思議に思った。
その心は好奇心からではない。
体がこわばった。
何かがこちらを見ている気がしたから。
だが、どこからなのかは分からない。
足が竦んでしまっている。
何かがいる、その予感が錘となって封じている。
喉の奥から飛び出そうな感情を寸前まで抑えている。
そんな貴方は、呼吸が微かに乱れていることに気がついた。
どうしてここにいて、
この出口の兆しもない場所に囚われているのか、
その疑念すら呑まれていたほどに、焦燥していることにも。
貴方は、ようやく意識を整えた。
見えない何かを知るために、心を固めた。
鼻の奥へと空気を深く吸いこみ、
息を押し殺し、そっと耳を澄ませた。
何もなかった。
だって貴方は、一人でいるのだから。
【形の無いもの】
くぐって楽しんでいた小さな大迷宮。
次から次へと移って、いざてっぺんへ。
それも今やこぢんまりなオブジェ。
胸が躍る心は、深い底へと迷い込んでしまった。
【ジャングルジム】
人の営み。
数多の灯。
夜の帳にて煌めくは、
眠りを知らない光の真珠。
【夜景】
怒りも、悲しみも、
喜びも後付け。
空とはそれほど豊かな世界。
人でも操れない上位空間。
地を濡らす雫はどれほどの恵みか。
身を濡らす雫はどれほどの慈しみか。
この星が滅び、生まれ変わったときから、
再び滅ぶまで、青くあり続ける。
回る火の剣と形容された轟音で震えたとき、
人々はこれを怒りと喩えた。
喪い、押し殺す声をよりかき消されたとき、
人々はこれを悼みと呼んだ。
日照りで枯れた畑と木々が雨で潤ったとき、
人々はこれを喜びと捉えた。
すべての雫は人のように、
とめどなく溢れる涙のように。
怒りも、悲しみも、
喜びも後付け。
でも、人はこの空の泣き声を、
そう例えずにはいられない。
【空が泣く】
心とは火だ。
薪がなくては盛らない。
迸る火花と煤けた匂いに、身体は燻る。
一度は捧げた以上、その魂も緋色に帯びる。
赫耀、赫灼、赫奕、赫焉。
灰燼に帰すまで突き進め。
決してその歩を留めるな。
有漏路の地にて夢を追え。
老いさらばえても尚熾れ。
自分と交わした契り故に。
成した末には灰がかっているだろう。
その証は決して蔑んだものではない。
尽力——この焦げ跡は誰にも削ぎ落とせない。
前進——この燃え続ける轍は誰にも消せない。
例え、誰からも忘れ去られようが構わない。
命果てるまで焔に生きたことを、自分自身に焼き付けていれば良いのだから。
【命が燃え尽きるまで】