カーテンから漏れる淡い光を仄かな灯りに、
なおも暗い部屋でお互いに額をくっつける。
艶かしく零れる吐息が肌にかかり、
ふと離した女は淋しげに見つめてきた。
言葉は交わさず、眼差しで求めてくると、
甘美に唇を重ね、愛を念じて伝え合う。
やがて影をくねらせ、恥じらうも嬌声を上げ、
共に落ちてゆく感覚への悦びを覚える。
ひとりぼっちの月夜は今日だけ戸締り。
肌身を寄せて孤独を置き去りにして。
もしかしたらこの日だけかもしれない。
褥を共に、ぬくもりで傷を癒すこの時が。
【特別な夜】
朽ちる流れに身を任せ、
気儘な寒空が肌を隠させる。
来たる暮相は曙色に染まり、
終を告げる風はどこか優しく。
外套を纏って帽子を目深く、
閑散に包まれた街路を歩く。
現世の石畳をあてもなく辿り、
堅い靴音と日常が木霊する。
微風が裾を翻し、
頬をよぎるそれにどこか嬉しく、
朱色一つの今世でもまた、
ひとりぼっちの旅が始まる。
【木枯らし】
知覚した。
眼前の衝撃に脳が強いられた。
焼きつくような感覚が全身にわたる。
今すぐ逃げろという信号が本能となって己を急かしている。
だが動けない。
指先一つも動かせない。
額に突きつけられた冷たい鉄の凶器に、理性が凍っている。
——なぜなんだ。
嘘と言い聞かせるには無理があった。
これから親友に殺されるとは、彼が想像できなかったのだから。
【どうして】
若さと老いを区切る一つの線。
緩やかに始まり、静かに衰えてゆくもの。
一つの生として死に辿り着くまでの長旅。
我々は摂理のなかにいる。
それは神意がそう定めたと、至極確かとはいえない。
確実なのは、誰しもが必ず節目を迎えることである。
どれだけ心が幼かろうが、躯は厭でも育っていく。
誰かが作った通行儀礼で、そういうものだと強調する齢を、多くの人間が経験するのだ。
【20歳】
群青に浮かぶ遠い灯。
人智が触れた白い星。
暗い彼方から覗く顔。
夢路へと導く淡い時。
【三日月】