夏の魔法使い

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7/31/2024, 6:12:16 AM

『澄んだ瞳の仮面』

幸福の王子って本当に幸福だったのかな?
なんて考えた。
もしかしたらこうだったりして…

【王子視点】
生まれた瞬間この国の運命を背負わされて、小さい頃からパーティーなり勉強なりで大忙し。いつの間にかどういう‘僕’を求められてるのかわかるようになって、〈いい人〉とか〈真面目〉とか表の顔の仮面を作った。ウケが良かったのは、純粋でピュアな王子だったけ。コツはキラキラお目目。
んで、若くで死んだ。
そして、黄金で宝石の瞳をあしらえた僕の銅像が建てられた。そこに魂を宿して国の様子を見てた。
僕が死んだ後、ケイルっていう人が国を仕切ったせいで、貴族と平民の格差が激しくなった。
まだ〈いい人〉の仮面が脱げなくて、助けたいとか思った。せめて僕の金箔とかを届けられたらいいのに。
ある日足元にくりくりとした目のツバメがいた。そのツバメに「澄んだきれいな瞳ですね」と言われた。ツバメに国のことを話したら、「私が貧しい人達に届け物をしましょう」と言った。
さっそく体から金を剥がし、ツバメは飛んだ。足が灰色になった。
次はマントが灰色になった。
そして、マッチを売っていた少女には左目を、森に捨てられた兄妹には右目をあげた。
届け物をした人の黒い瞳は明るく輝く。
ツバメが言った。「良かったのですか?きれいな瞳だったのに。」僕は「いいんだよ。本物の目じゃないからさ。まぁ何かをみることはできなくなったけどね。」って答えた。
そうして3ヶ月が経った。
ツバメが休みたいと言ってきた。
でもまだ苦しんでる人々がいる。もう少し頑張れない?と言って届け物をさせた。
帰って来る頃には目に光はなかった。
次の朝には動かなかった。
泣きたかったけど、目がないから。
届け物ができなくなった今、ここにいる意味はない。僕の魂は天国に行った。
その後、灰色の銅像は鋳物工場で溶かされた。

神が名もなき天使に言った。「この世界で大切な物を持ってこい。」
天使は銅像の溶け残りとツバメの死骸を持ってきた。
神は「正しい選択をしましたね。」って。
僕はその様子を見てた。
そして呟く「ホントかな」

【ツバメ視点】
僕はツバメ。
ちゃんとした名前はないからただのツバメ。でも、自分で考えた名前はある。〈ジャック〉って言うんだ。大きな豆の木を育てた人の名前。生まれ変わったら自己紹介で言ってみたい。
ちなみに僕は国の偉い人(ケイルだっけ)に仕えていて、たまに仕事がある。
ある日、ケイルが「私の国なのに前の王子の銅像があるのは癪だ。どんな方法でもいいから撤去させろ。」って僕に言った。なんか街の人は王子を尊敬してるから撤去できないらしい。
とりあえず、その銅像に行ってみる。魂が宿っているみたいだから話しかけてみる。「澄んだきれいな瞳ですね。」少々猫を被るように言う。銅像は小さくありがとうと言った。少し喋って懐に潜り込もう。そう思った。しばらくして銅像は国のことについて話してきた。そしてなんとかして銅像の金箔を届けたいと言った。僕は考えた。銅像の金が剥がれれば銅像はみすぼらしくなって撤去される、と。だから王子のと届け物を手伝うことにした。金を剥がし、飛び立つ。毎日毎日。宝石の瞳とかも届けた。僕は内心どんどんみすぼらしくなっていく銅像を見て、ほくそ笑んだけど、目論見がバレないよう心配の言葉をかけた。
そうして3ヶ月が経った。毎日国中を飛び回り、僕の体はボロボロだった。休みたいと頼んだが、銅像は僕に届け物をさせた。
それが最後の届け物になるとも知らずに。
でも銅像は、お世辞にも綺麗とは言えない。きっと撤去される。未練はほぼないから成仏した。
その後銅像が撤去されたかはわかんないけど、天国で〈ジャック〉って自己紹介できたからいいや。 
                     おしまい


…この話で本当に瞳が綺麗な人は誰だろう?
なんてね。
僕の暇つぶしに付き合ってくれてありがと。
え、僕が誰かって?僕なんかに名前はないんだ。 

7/29/2024, 12:08:23 PM

『嵐を呼ぶオオカミ少年』

僕は嘘つきだ。
まさに絵本のオオカミ少年のように。
寂しくてかまってほしくて嘘をついた。
積み重なってだれに何を言っても信じてもらえない、
構ってもらえない。寂しく思う気持ちにも嘘をつくようになって誤魔化すように嘘を吐く。

ある日どす黒い雲が見えた。
嵐だ。 とても大きい。
こんなのが来たら街はどうなるか。
でも、もう街の人には伝えない。
嵐が来たなんて信じてもらえない。
本当に嵐が来ようがたまたま嘘とタイミングがあっただけとかなんとか言って信じることはないだろう。
そんなこと考えながら安全なところに逃げる。

僕は悪くない。
街の人のせい。
嘘はついてない。
何も言ってないから。
寂しい。
街の人なんて大嫌い。

頭によぎった言葉の中に嘘は幾つあるだろう。