『澄んだ瞳の仮面』
幸福の王子って本当に幸福だったのかな?
なんて考えた。
もしかしたらこうだったりして…
【王子視点】
生まれた瞬間この国の運命を背負わされて、小さい頃からパーティーなり勉強なりで大忙し。いつの間にかどういう‘僕’を求められてるのかわかるようになって、〈いい人〉とか〈真面目〉とか表の顔の仮面を作った。ウケが良かったのは、純粋でピュアな王子だったけ。コツはキラキラお目目。
んで、若くで死んだ。
そして、黄金で宝石の瞳をあしらえた僕の銅像が建てられた。そこに魂を宿して国の様子を見てた。
僕が死んだ後、ケイルっていう人が国を仕切ったせいで、貴族と平民の格差が激しくなった。
まだ〈いい人〉の仮面が脱げなくて、助けたいとか思った。せめて僕の金箔とかを届けられたらいいのに。
ある日足元にくりくりとした目のツバメがいた。そのツバメに「澄んだきれいな瞳ですね」と言われた。ツバメに国のことを話したら、「私が貧しい人達に届け物をしましょう」と言った。
さっそく体から金を剥がし、ツバメは飛んだ。足が灰色になった。
次はマントが灰色になった。
そして、マッチを売っていた少女には左目を、森に捨てられた兄妹には右目をあげた。
届け物をした人の黒い瞳は明るく輝く。
ツバメが言った。「良かったのですか?きれいな瞳だったのに。」僕は「いいんだよ。本物の目じゃないからさ。まぁ何かをみることはできなくなったけどね。」って答えた。
そうして3ヶ月が経った。
ツバメが休みたいと言ってきた。
でもまだ苦しんでる人々がいる。もう少し頑張れない?と言って届け物をさせた。
帰って来る頃には目に光はなかった。
次の朝には動かなかった。
泣きたかったけど、目がないから。
届け物ができなくなった今、ここにいる意味はない。僕の魂は天国に行った。
その後、灰色の銅像は鋳物工場で溶かされた。
神が名もなき天使に言った。「この世界で大切な物を持ってこい。」
天使は銅像の溶け残りとツバメの死骸を持ってきた。
神は「正しい選択をしましたね。」って。
僕はその様子を見てた。
そして呟く「ホントかな」
【ツバメ視点】
僕はツバメ。
ちゃんとした名前はないからただのツバメ。でも、自分で考えた名前はある。〈ジャック〉って言うんだ。大きな豆の木を育てた人の名前。生まれ変わったら自己紹介で言ってみたい。
ちなみに僕は国の偉い人(ケイルだっけ)に仕えていて、たまに仕事がある。
ある日、ケイルが「私の国なのに前の王子の銅像があるのは癪だ。どんな方法でもいいから撤去させろ。」って僕に言った。なんか街の人は王子を尊敬してるから撤去できないらしい。
とりあえず、その銅像に行ってみる。魂が宿っているみたいだから話しかけてみる。「澄んだきれいな瞳ですね。」少々猫を被るように言う。銅像は小さくありがとうと言った。少し喋って懐に潜り込もう。そう思った。しばらくして銅像は国のことについて話してきた。そしてなんとかして銅像の金箔を届けたいと言った。僕は考えた。銅像の金が剥がれれば銅像はみすぼらしくなって撤去される、と。だから王子のと届け物を手伝うことにした。金を剥がし、飛び立つ。毎日毎日。宝石の瞳とかも届けた。僕は内心どんどんみすぼらしくなっていく銅像を見て、ほくそ笑んだけど、目論見がバレないよう心配の言葉をかけた。
そうして3ヶ月が経った。毎日国中を飛び回り、僕の体はボロボロだった。休みたいと頼んだが、銅像は僕に届け物をさせた。
それが最後の届け物になるとも知らずに。
でも銅像は、お世辞にも綺麗とは言えない。きっと撤去される。未練はほぼないから成仏した。
その後銅像が撤去されたかはわかんないけど、天国で〈ジャック〉って自己紹介できたからいいや。
おしまい
…この話で本当に瞳が綺麗な人は誰だろう?
なんてね。
僕の暇つぶしに付き合ってくれてありがと。
え、僕が誰かって?僕なんかに名前はないんだ。
7/31/2024, 6:12:16 AM