僕は後悔を消し去りたい。
あの日の選択を、過ちを、無かったことに──
…なんて言っても、実際、僕は漫画の主人公ではないし、過去を改変出来る世界線にいる訳でもない。
だから、
消えないなら、せめて葬ってしまおうと思った。
たくさんある後悔はクローゼットに隠してきたけど、このままじゃ可哀想かなって。捨てたくはないし。
そうと決まれば埋めに行こう。思い立ったが吉日なんてことわざがあるくらいだし、早いほうがいいだろう。
やっぱり木の近くとかがいいかな。
なんとなくロマンがあるし。
あれこれ考えてるといつの間にか大自然にいた。
いや、ちゃんと自分の足で来たけれども。
早速いい感じの木を見つけて、いい感じの穴を掘り、リュックに詰めてきたおもちゃやら雑誌やらを丁寧に入れていく。
どれもきれいなままのそれらは、女児向けやら女性向けのもの。簡潔に言うと、これらが後悔そのものだ。
まぁ、色々あったんだ。色々ね。
こんな形でしか弔うことが出来ないけど、もう後悔しないって決めたから。これでけじめをつけるんだ。
一緒に悩んでくれてありがとう。
でも、なんで僕は普通じゃなかったんだろう。
[後悔]
今まで通りに生きているだけじゃ知り得なかった感情を、叫びたいと思った。
ここで君に伝えるだけじゃ足りない。天まで届くように。ついでに世界中の人に知ってもらうんだ。
こんな馬鹿なこと言ってたら君は呆れるだろうけどね。
それでも僕は伝えたい。
仕事を蔑ろにすることが無いのに僕を優先してくれることとか、相槌を打って話を聞いてくれることとか…
挙げればキリがないが、おそらく君は気が付いていないから。
君がしてくれるちょっとしたことは、僕を救ってくれていたってこと。
それを、恥ずかしいからって伝えそびれた。
だから、もう遅いけど、今伝える。
聞こえるかな、
息を吸って、ありったけの声で、叫ぶ。
「今までありがとう!大好きだよ!」
願わくば、ずっと一緒に居たかったな。
[愛を叫ぶ。]
久しぶりに外に出た。
この日常になっている引き籠もり生活を脱するべく、服を買いに行こうと思って。
Amazonとかネットで買っても良かったんだけど、なんとなくショッピングモールに行く気になったから。
こんなこと考えるなんて僕らしくないけど、たまには行ってやってもいい。(何様だ僕…)
電車を乗り継ぎ、やっと着いた店はキラキラ眩しくて別世界みたいだった。
何から選べばいいのか分からなくて、おどおどしている僕に、
「お客様、こちらの靴なんかお似合いですよ!」
なんて、
本音かどうかなんて見分けがつかない僕にとって、それはまさしく褒め言葉だった。
「あっ、えっ、ありがとうございます…?」
とか言ってる間にマネキンが着ている服を勧められ、人生で初めてマネキン買いをしていた。
始終戸惑っていたけど、店を出る時、
「どうぞ素敵な日常を!」
って言われて、ハッとした。
もしかすると店員は僕の考えてる事全部分かってたのかもしれない。
この服を着て出掛けるようになる日常が来る。そう考えると、勇気をだして来てよかったと思えた。
当たり前だけど、1年後の僕からみた今の僕は、1年前の僕だ。
今の僕が1年前のことを覚えていないから、きっと1年後の僕も今のことを覚えていないと思う。
でも、
今僕は不自由無い生活をしているから幸せだし、1年後もそうなんだろうと考えている。
もしかすると、今より楽しく幸せになってるかもしれないと思うと、夢があっていい。
今は想像する事しか出来ないけど。
来年も、楽しくありますように…
朝、目が覚めると雨音が止んでいた。
台風は通り過ぎたみたいだ。
昨日の隙間ひとつ無い灰色は消えていて、代わりに青く澄んだ空が広がっていた。
「夢だったみたいだ…」
大雨が降ったことも、仕事が上手くいかなかったことも、消えたいと思ったことさえも。
大雨に打たれてとぼとぼ帰ってきた僕からすると、もっと早く晴れてほしかったけど…
いつものようにカーテンを開けると、想像していたより温かい朝日が僕を包み込んでくれていた。