NoName

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4/5/2024, 4:53:29 PM

この宇宙に、星として降る僕らを讃えよう
どんな君もあの真白い銀河へ溶け出すよ
星が愛している 君を愛している
心の灯りの落ちるところ その音を聞いてみて
君の答えがいつでも眠っているから
大丈夫
君は、星のなかにいるんだよ

4/5/2024, 9:42:15 AM

「もう全部うんざりなんだ。
放っておいてくれ。」

限界は突然来たみたいだった。
気付いた時には音を上げていた。
よりにもよって、君に向かって。

一度言葉にすれば後戻りができなくなる。
淀みは着々と私を飲み込み、ついに怪物となった。
怪物は私が眠ることさえ許さなかった。
寝転がると奴の怒号が聞こえるから、致し方なくベッドに腰掛けていた。
どれ程そうしていたか分からない。

「いつまで篭ってるつもりなの。」

痺れを切らした君が扉を叩きに来た。

「放っておいてくれと言っただろう。」
「私は、何があっても君の傍に居たい。」

実に君らしい言葉だ。
それを救いと受け取る自分がもういない事を、まざまざと見せつけられているようだった。

「簡単に言うな。」

絞り出した声の全てが情けない言葉に変わる。

見限った君が扉を開けた。
私の様子を窺わずにはいられないのだろう。
合わせる顔などあるわけもなく、ただ床を見つめていた。
しかしその努力も虚しく、口からは皮肉が止まらない。

「入ってこないでくれ。」
「私は君が想像しているような人では無くなった。」
「こんな人間に構うのは、馬鹿のすることだと思わないか。」

君は何も答えない。
やがて秒針の進む音以外、何も聞こえなくなった。
いっそ私を一思いに罵ってくれ、頬でも打ってくれと本気で思った。

沈黙を破ったのはズンズンと近づいてくる足音だった。
君は私の足元で腰を下ろし、一つ呼吸をしてから口を開く。

「私が君と出会った日のことを覚えてる?」

そんな昔のこと、ちゃんと覚えていない。
静かに首を振った。

「私は覚えてる。丁度この季節の、今くらいの時間だった。
君は全てを背負い込むみたいな、思い詰めた目をしていた。私が近づくと、その目で私を睨んだだろう。
君を好きになったのは、あの時だったと思う。」

君は寡黙な私に反して、よく喋る方だ。
しかしこういった話は一度も聞いたことがなかった。

「私は君が美味しくご飯を食べてくれたら幸せ。
君の赤子のような寝顔は、私の1番の癒しだ。
でもね、」

明け透けでいて実は強情な君が、大事に隠していた秘密。

「私はあの顔が今でも忘れられない。」

迷いのない声が私の耳を射抜く。
君は祈るようにして私の手を握った。

「顔を上げてよ。
きっと君は今、あの時と同じ目をしている。」

重たい重たい首が、自然と伸びていく。
視界が鮮明になる。
久しぶりに肺を使って息をした気がした。

君が優しく微笑みかけている。
それはいつもと変わらない笑顔だ。

悪趣味だな。
私はか細く文句垂れたあと、堰を切ったように泣いた。

4/3/2024, 9:15:17 AM

癒着し合っていたものが分離する時、お互いが綺麗に分かれて剥がれ落ちるなんてことは不可能で、大抵の場合もう片方の内容も多かれ少なかれ巻き込まれる。
道連れとでも言わんばかりに、一緒に雪崩落ちてしまう。
「埋まらない心の穴」はこうして作られるのだと思う。
離れたくないのは、剥がす時が痛いから。
剥がせば自分ごと持っていかれそうだから。
手放すのが怖いのは仕方ない。

4/1/2024, 1:18:33 PM


危ない!!

ギィーーー、ガッコン。

頭上から鈍い音がした。遠くにいるサラリーマンがこちらに向かって何か叫んでいる。見上げると巨大な塊がゴンゴンと、ビルの壁に体当たりしながら迫ってきていた。塊は明るい緑色をしていた。このビルの4階にある歯科クリニックと同じ色。そういえば半年前くらいに、虫歯の治療でかかったことがあった。貰った診察券を見て、この色ダサいなあと思った覚えがある。最近になって今度は反対側の奥歯が痛み出したから、近いうちまた行こうと思っていたんだ。

ああこれ、看板か。
そこのクリニックの看板なんだ。
4階から落下してきているのか。
僕に向かって。

「ははは、嘘だろ。」


この後待ち合わせなのに、どーしよ。


穏やかな昼下がり。
春を知らせる強風の中、
重たく、それは酷い轟音だった。

3/31/2024, 7:15:04 AM

「淹れすぎたから。」
両手に持った珈琲の一つを君の手元に置いた。

「ありがとう。」
君はそれをほんの一口飲むと、いまだに埋まらない白紙との睨めっこを再開した。

ポーン。
時計の針が一周する合図。君の耳には届いているのだろうか。

ギィ、ギィ。
いつまでも腰掛けられている椅子の背もたれが、悩ましげに揺れる。

僕はここ数日、この音ばかり聞いている。
君の凝り固まった背中と、皺の寄せられた眉間ばかり見ている。

「一仕事終えたから休憩するけど、君も一緒にどう?」
うん。とも、ううん。ともつかない曖昧な唸り声が返ってきた。

君はまだ振り返らない。

はあ、全く。
僕も背を向けて、ドアノブに手をかける。

扉を開けると、ふわりと甘い香りが部屋に舞い込んだ。

「えっ!?」
驚く声と共に、勢いよく椅子から立ち上がる君。

「そろそろ焼けるみたい。レモンケーキ。」
隈の広がった目が、途端に子供のように輝き始めた。

僕は君の肩の力を抜く方法を知らないけど、
君が飛び跳ねるほど喜ぶ方法は知っている。

なに、僕も久しぶりに食べたいと思っていただけだ。

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