うるせー、黙れ
私の道だ 私の人生だ
私が通るぞ 邪魔してみろ
私が居る このままで在る
凪にはならない
凪には乗るんだ、さあ
風よ、吹いたら教えてくれ
とっくに羽は伸ばしてある
私は飛べたんだ
雲を抱いて、今は太陽と隣り合わせ
目を開けてこの世界を見渡したんだ
『偽りの空がバラバラバラと剥がれ落ちて、地の底がカーンと抜けて、今まで見てきたはずの世界が、宇宙が大胆に超急速で広がって変化する。
実感とか無いけど、そんな気がしてるんだ!』
この宇宙に、星として降る僕らを讃えよう
どんな君もあの真白い銀河へ溶け出すよ
星が愛している 君を愛している
心の灯りの落ちるところ その音を聞いてみて
君の答えがいつでも眠っているから
大丈夫
君は、星のなかにいるんだよ
「もう全部うんざりなんだ。
放っておいてくれ。」
限界は突然来たみたいだった。
気付いた時には音を上げていた。
よりにもよって、君に向かって。
一度言葉にすれば後戻りができなくなる。
淀みは着々と私を飲み込み、ついに怪物となった。
怪物は私が眠ることさえ許さなかった。
寝転がると奴の怒号が聞こえるから、致し方なくベッドに腰掛けていた。
どれ程そうしていたか分からない。
「いつまで篭ってるつもりなの。」
痺れを切らした君が扉を叩きに来た。
「放っておいてくれと言っただろう。」
「私は、何があっても君の傍に居たい。」
実に君らしい言葉だ。
それを救いと受け取る自分がもういない事を、まざまざと見せつけられているようだった。
「簡単に言うな。」
絞り出した声の全てが情けない言葉に変わる。
見限った君が扉を開けた。
私の様子を窺わずにはいられないのだろう。
合わせる顔などあるわけもなく、ただ床を見つめていた。
しかしその努力も虚しく、口からは皮肉が止まらない。
「入ってこないでくれ。」
「私は君が想像しているような人では無くなった。」
「こんな人間に構うのは、馬鹿のすることだと思わないか。」
君は何も答えない。
やがて秒針の進む音以外、何も聞こえなくなった。
いっそ私を一思いに罵ってくれ、頬でも打ってくれと本気で思った。
沈黙を破ったのはズンズンと近づいてくる足音だった。
君は私の足元で腰を下ろし、一つ呼吸をしてから口を開く。
「私が君と出会った日のことを覚えてる?」
そんな昔のこと、ちゃんと覚えていない。
静かに首を振った。
「私は覚えてる。丁度この季節の、今くらいの時間だった。
君は全てを背負い込むみたいな、思い詰めた目をしていた。私が近づくと、その目で私を睨んだだろう。
君を好きになったのは、あの時だったと思う。」
君は寡黙な私に反して、よく喋る方だ。
しかしこういった話は一度も聞いたことがなかった。
「私は君が美味しくご飯を食べてくれたら幸せ。
君の赤子のような寝顔は、私の1番の癒しだ。
でもね、」
明け透けでいて実は強情な君が、大事に隠していた秘密。
「私はあの顔が今でも忘れられない。」
迷いのない声が私の耳を射抜く。
君は祈るようにして私の手を握った。
「顔を上げてよ。
きっと君は今、あの時と同じ目をしている。」
重たい重たい首が、自然と伸びていく。
視界が鮮明になる。
久しぶりに肺を使って息をした気がした。
君が優しく微笑みかけている。
それはいつもと変わらない笑顔だ。
悪趣味だな。
私はか細く文句垂れたあと、堰を切ったように泣いた。
癒着し合っていたものが分離する時、お互いが綺麗に分かれて剥がれ落ちるなんてことは不可能で、大抵の場合もう片方の内容も多かれ少なかれ巻き込まれる。
道連れとでも言わんばかりに、一緒に雪崩落ちてしまう。
「埋まらない心の穴」はこうして作られるのだと思う。
離れたくないのは、剥がす時が痛いから。
剥がせば自分ごと持っていかれそうだから。
手放すのが怖いのは仕方ない。