八色鵺

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8/22/2024, 12:22:16 PM

─── 裏返し ───


狂っているのは世界の方で
僕の頭は正常なんだ

そうだよね先生

いつもの薬もいつもの検査も
僕が間違ってない証明をする為なんだよね

先生だけなんだ
僕を信じて正当化してくれているのは

お願いだから
僕の存在を否定しないで

お願いだから
私達を消さないで

8/21/2024, 1:38:22 PM

─── 鳥のように ───


いつからかここに居た
始まりの記憶はあまりない

いつも綺麗に着飾らされて
時折ふと窓の外を眺めていた
そのたびに聞かれた


外の世界へ行きたいかと


私の答えはいつも同じ
黙って首を横に振る

そんなこと考えなかった
考えてはいけないと思ってた
そして何事もなかったように
また君へ話しかける


幾つもの季節が巡ったある日
誰かが私を連れ出しに来た

いつからかここに居た
最後の記憶ははっきりある


そこにはもう私は居ない

8/20/2024, 10:52:22 AM

─── さよならを言う前に ───


帽子をかぶり
ジャケットを羽織る
手荷物は鞄ひとつ

ふと振り返り自分の部屋を見渡す

断捨離だと言って殆どの物は捨てたから
実に寂しい部屋だ

なんとなく一礼したくなった
なんでだろう
これから自由になるのに
誰にも何にも縛られなくなるのに

少しだけ名残惜しく思いながら玄関へ行き
お気に入りのスニーカーを履き
気持ちと一緒に靴紐をきつく結んだ

嬉しいような寂しいような
複雑な想いを胸に外へ歩き出した今日

私は人としての道を踏み外した

8/19/2024, 1:37:14 PM

─── 空模様 ───


ここ数週間ずっと空がへそを曲げている
時期的に仕方のない事なんだけれど
どうしても気分がくさくさしてしまうね
そろそろお日様が恋しいやつらも増えてくる頃だ

あまりやりたくないんだけどな

溜め息をひとつ吐き
膝の上の猫を床へ下ろし
椅子から立ち上がり
雨が降る外へ歩き出す

暗い空を見つめ片手をふわりとかざし撫でる

途端に雨雲はゆっくりと消え失せ
暖かな光が降り注ぎだした


天気は自然の贈り物
人工的に操るものじゃないんだけれど
たまにはね


眩しそうに目を細めながら
家までのぬかるんだ道を戻っていく

8/18/2024, 12:45:23 PM

─── 鏡 ───


父譲りの綺麗な髪
母譲りの陶器のような肌

とても美しい娘だとみんなは言う
それなのに
私は自分を見たことがない

家には鏡と名の付くものはひとつもなかった

両親に何故ないのか聞いても
買って欲しいとねだってみても
意味がないからと取り合ってくれない

だから内緒で買ってきたの
とても私好みの可愛らしい手鏡

帰宅してから覗いてみようと
その場で我慢するのが大変だったわ

両親が寝静まったあと
自室でこっそり鏡を覗き込む

数十秒見つめた次の瞬間
私は悲鳴をあげて手鏡を床に叩きつける


覗いた鏡には私の部屋しか映っていなかった

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