「色への執着」
【お題】色とりどり
実は私は色覚障害です。しかも、その中でも珍しい白黒しか見えないタイプです。
みんなの見えている世界と私の見ている世界は違うため、子供の頃は友だちと話が合わず馬鹿にされることもありました。その度に悲しくて、この世のものが全部パンダとシマウマとサッカーボールみたいに親切だったら良かったのに、と嘆いたものです。
そんな私にも、一つだけ見える色があったのです。それは、血の赤。ただの赤色じゃダメですよ、血じゃないとダメなんです。
唯一見える色、唯一視界を彩るもの、美しくないわけがない!
生暖かく滴る深い赤、反射する光は色のグラデーションを呼びさらなる色味を私に見せてくれる。視界に赤があふれるサインとでも言うように広がる鉄の匂い。ああ、この要素全てに私は満たされる。
そう、これだけが私を満たす。私の白黒だった世界に指したのは光ではなく血だった!
この赤に溺れたい。つまらない白と黒にはもううんざりだ。
この美しさを体中に浴びられたなら私はどんなに幸福だろう。
真っ赤なドレスを着て、真っ赤な口紅を施し、真っ赤なカーペットの上を真っ赤なピンヒールで歩く。髪には真っ赤な薔薇の髪飾り。
全ては血で染めてしまえばいい!私の世界を彩る方法は唯一、世界を血で染めることだ。
こんなに簡単なこと、なぜ実行しなかったのだろう。いえ、昔から薄々考えてはいたんでしょうね。きっと私だもの、今も昔も赤への熱情は冷めぬまま、悪化する一途。
でも、その願いは叶いませんでした。日記を読まれてしまったのかしら。それとも検索履歴とかから?ともかく私の世界を血で満たす作戦はバレてしまったのです。彼も私と同じ白黒の世界の住人だったでしょうに、なぜこの素敵な作戦に賛同してくれなかったのかしら、って疑問に思ったわ。
最後は彼の口からあっさりと教えてくれました。彼は白と黒を本当に愛していたようです。
「なんだ、あなたも私と同じだったのね」
そういって私は息を引き取りました。最後に見えた包丁と皮膚の間から吹き出る血の美しかったこと。こんな私なのに、最後に素敵なプレゼントを貰っちゃいましたね。
【お題】新年
クズ。だしカス。
大器晩成を信じて今できることすらしようとしない。
一年の目標なんて立てないし大掃除だってしてるわけない。
でもみんな優しいから同情して慰めて大丈夫だよって言ってくれます。もうすぐ大丈夫じゃなくなるのにね。
現状維持すらできないからどんどん崩れていきます。落っことしたもの拾うことすら億劫で、ただ何もせず壁か天井を見つめていたら数時間経ってた、なんて誰にも言えないね。
お前の人生は恥だと、誰かに認めてほしい。擁護は柔らかいナイフで傷つけてるだけだと気づいてほしい。って、それはさすがに他人任せすぎない?自分で言え、言わなきゃ伝わらないから言え、努力しろこのクズ、このカス。
生まれてきてごめんなさいすら言えないので今年は椅子から立ち上がることでも目標にしようかな……やっぱ無理かな
【お題】風邪
「風邪…だと思います。まあ多分、おそらくは…」
そういって彼女は続ける。
「でも変なんですよ、確かに熱はあるんですけど、でもちょっと違う感じっていうか…」
「どこも悪くないんです。熱はあるんですけど体調は問題なし、っていうか…いや、確かにそういうこともあるとか、とりあえず休んだらとか、あるいは病院に行ってみるべきだとか、」
「わかってるんですよ…?でもそれで何もなかったらもう確実に私がただどこも悪くないのに発熱だけある人になっちゃうじゃないですか、」
「なにか問題でも?って顔ですね。
いいでしょう、何が問題なのか」
「例を上げれば、ほら、私金魚飼ってるじゃないですか。でいうか飼ってたじゃないですか。こないだぐったりしてると思ったら死んじゃってたけど」
「あとは、最近パソコンのファンが必死に働いてたり、冷房がきかなくなったりとか…。あ、でも冷房の件は業者さんに調べてもらったら何も問題なく動いてるって言われちゃって、困っちゃいました、、。」
「ほら、おかしいでしょう。え?それが私の風邪となんの関係があるのかって?いやほら、全部『熱』じゃないですか、原因」
「だからー、私の熱のせいなんじゃないかって。…ちょっと、話聞いてます?真剣に悩んでるんですけど」
「ちょっと、さっきから下向いて…って、顔真っ赤じゃないですか!大丈夫ですか!?最初は元気だったのに一体何で…」
「え、この部屋が暑すぎる…ってそんなに暑いですか?やっぱり冷房壊れちゃったから…」
「ごめんなさいね。私の悩み、誰かに聞いてほしかったんですけど。発熱って…ここまでとは……」
「懐かしさを繰り返す」
【お題】懐かしく思うこと
例えば、僕を構成する全てをパズルのピースみたいにバラバラにして世界にばら撒いたとしよう。
そうして何もなくなった空っぽの僕はまた生まれてくる。
そうなったらやることは一つだよね。世界中を旅してピースを拾い集めるんだ。
自由の女神像に見下され、
ピラミッドの斜め右を横切る
ひとつ、ふたつ拾い上げ、その度に懐かしさが蘇る
最後は以外にも近所の公園だった。
灯台下暗し、一番大きなピースはここにあったんだ。
僕のすべてが埋まっていく。かつての僕が再び構成されていく。
今の世界に昔の僕
しくじった。
不安定だ。バランスが悪いね。
僕が望んだことは実にナンセンスだった。
これをナンセンスと思えるくらいには、僕の感性は成長したかな。え?これは昔の僕だから昔と何ら変わりないって?
鋭いね。
…ふと懐かしさを感じた。おかしいな、ピースは全て集まったはずだけれど。
けれど確かにこのやり取りに覚えがある。
言い知れない違和感を感じながらも昔を取り戻した僕は歩みを進める。
ピースは、またそうして、気づかぬうちに増えていく。そしてそのうちに、新しいパズルは構築されてゆくのだ。
「ひとり」
【お題】もう一つの物語
隣には、もうひとりの僕がいます。
いつもそれが見える。視界の端にチラチラと映る君は、僕の失敗を嘲笑うように成功していき、かと思えば時おり見せる優しさか憐れみかわからないその目は、僕の成功をまぐれとでも言うようにつまらないことで堕ちていく。
「トータルで言えば僕のほうが幸せかもね。おまえは僕しか見てないから」
確かに心のなかで呟いただけだったはずのその皮肉と負け惜しみでマーブル模様を描いた感情は、いつの間にか君に届いていて、蔑んだ目を向けてくるんだ。
やめて、痛い!
「そら見ろ、やっぱりお前も俺の言葉を気にしてる。はっきり『勝ち』って言えない人生だから、幸せなんてあやふやな言葉で対抗してるんだろう」
そりゃわかってる、どんぐりの背比べってやつさ。
きっと僕は脳みそが見えない管で繋がっていて、流れ込むあいつの思考と混ざりあった僕のあいつに対する感情は、本来あるはずの僕の自我を埋め尽くし脳内を支配していくんだ。
僕が僕でなくなる?アイツも僕だから心配いらない。僕は僕以外の何物にもなれないからね。
「それだよ。その不安が俺を鮮明にしていくんだ。お前は自分の自我を自分一人で抱えるのが不安なんだ。だから俺なんかを見てる。いや、想像してる。」
「どういうことだよ、お前はお前で好きにやってるだろ。そっちは並行世界みたいなものじゃないのか?」
「さあな、わからない。少なくとも俺はお前が生み出した。俺は一人じゃ寂しくて死んじゃうウサギさんとは違うから、お前を必要と思ったことは一度もないね」
………。
嘘つけ。だってお前は僕だもの。お前も一人が寂しいから、きっとお互い求めあっていたから、世界が曲がっちゃったんだ。
「僕」と「俺」
どちらの主張が正しいかなんてわからないけれど、今はこの不安を少しでも拭い去れるならどうだっていい。
真実が明るみになる必要は、必ずしもあるわけではないのだから。
自分に言い聞かせるように吐き捨てる
「お前も僕も僕だから、きっとどちらもどこまでもハッピーエンドは手に入らないだろうけど。」