ごめん寝

Open App

「ひとり」
【お題】もう一つの物語

隣には、もうひとりの僕がいます。
いつもそれが見える。視界の端にチラチラと映る君は、僕の失敗を嘲笑うように成功していき、かと思えば時おり見せる優しさか憐れみかわからないその目は、僕の成功をまぐれとでも言うようにつまらないことで堕ちていく。

「トータルで言えば僕のほうが幸せかもね。おまえは僕しか見てないから」

確かに心のなかで呟いただけだったはずのその皮肉と負け惜しみでマーブル模様を描いた感情は、いつの間にか君に届いていて、蔑んだ目を向けてくるんだ。
やめて、痛い!

「そら見ろ、やっぱりお前も俺の言葉を気にしてる。はっきり『勝ち』って言えない人生だから、幸せなんてあやふやな言葉で対抗してるんだろう」

そりゃわかってる、どんぐりの背比べってやつさ。
きっと僕は脳みそが見えない管で繋がっていて、流れ込むあいつの思考と混ざりあった僕のあいつに対する感情は、本来あるはずの僕の自我を埋め尽くし脳内を支配していくんだ。

僕が僕でなくなる?アイツも僕だから心配いらない。僕は僕以外の何物にもなれないからね。

「それだよ。その不安が俺を鮮明にしていくんだ。お前は自分の自我を自分一人で抱えるのが不安なんだ。だから俺なんかを見てる。いや、想像してる。」

「どういうことだよ、お前はお前で好きにやってるだろ。そっちは並行世界みたいなものじゃないのか?」

「さあな、わからない。少なくとも俺はお前が生み出した。俺は一人じゃ寂しくて死んじゃうウサギさんとは違うから、お前を必要と思ったことは一度もないね」

………。

嘘つけ。だってお前は僕だもの。お前も一人が寂しいから、きっとお互い求めあっていたから、世界が曲がっちゃったんだ。



「僕」と「俺」
どちらの主張が正しいかなんてわからないけれど、今はこの不安を少しでも拭い去れるならどうだっていい。
真実が明るみになる必要は、必ずしもあるわけではないのだから。



自分に言い聞かせるように吐き捨てる
「お前も僕も僕だから、きっとどちらもどこまでもハッピーエンドは手に入らないだろうけど。」

10/29/2022, 2:56:20 PM