ぼくはね やきいもを食べてるきみがだいすきなんだ
アツアツのやきいもをはんぶんこして ふーふーして
やきいもの甘い湯気をかき分けながら おいしそうにかぶり付くきみの幸せそうな顔をみるのが大好きなんだ
そしてきみは プッと放屁する そしてぼくの方をみて
ニヤッとする ぼくはそんなきみを見てると 可愛くて仕方がなくなっちゃうんだ
そのうち おなかいっぱいになったきみは やきいものようにごろごろと 床にころがって眠ってしまう
猫のように 無防備にまあるいお腹をだして
ぼくは この上ないしあわせを感じる
ねぇきみ きみは何もしてくれなくても やきいもを食べてるだけで ぼくに こんなに幸せをくれるんだよ
世界にひとつだけ 唯一無二
とても大切な、特別な、ほかに変わりのないもの
しかし本当は世界に同じものはひとつも存在しない
同じ木になったリンゴでも、色もカタチも微妙に違う
大量生産されたリンゴの置物でさえ、あるものは誰かの思い出となり、玄関の靴箱の上にひっそりと飾られ、あるものは子供のおもちゃとなり、あるものはさっさとゴミ箱に捨てられる
時間という運命は、不可逆的な網の目のように私たちをちがう場所へと誘う
一秒前の空を見ることは永遠にできない
私たちは底なしに自由で、私が私でいる確証もない、一秒後にはすべてが終わるかもしれない世界で生きている
自由な翼を手に入れた代償は、足元にひろがった永遠の闇だ
私たちは手をつないで、名前をつけ、同じだと思い込む
足元の闇に囚われないよう、そこに大地があり今日と同じ明日がくると思い込む
そうやって作られた「同じ」世界は、安心、安全できゅうくつな愛すべきたましいの牢獄だ
そこでは自由、違うこと、闇でさえが、もてはやされる
わたしは虫に食われた木の葉を一枚手にとって、ハッとする
空は薄暗く、気味悪い黄色に染まっていた
大地には草一本はえず、虫や鳥もおらず、渇ききってひび割れていた
そこに生命と呼べるものは皆無だった
激しい風が絶え間なく地上を蹂躙し、目や鼻、口に不快な砂粒を叩きつけてきた
私はただ立っていることしかできない
砂粒を避けるように両腕で顔を覆い、どこへ向かっているのか、そもそも自分は今どこにいるのかもわからなかった
私は途方に暮れていた
どうしたらよいのかもわからないし、目印と呼べるものはなにもなかった
ただ耐えるしかなかった
前を向く力は残されていない
かろうじて指の隙間から自分の足元がみえる
私はまだ立っている
座り込んで大地に埋もれてしまいたい衝動にかられるが
自分の中の何かがそれを許さなかった
プライド、葛藤、トラウマ…
名前のついていないそれを苦々しく思った
そういうものに自分はすがっていると思った
思考は迷路にはまり、涙も出なくなったとき、なにか奥底にうごめくものが頭をもたげてくる
それは恐怖でもあり、灯火でもある
おおきな鏡のまえで、膝をついてたってみた。誰もいない、何もないしんとした部屋の片隅できみを想像する。
目の前にうつる自分の姿は想像上のきみであり、きみの目に映るぼくの姿だ。
ぼくはそっときみとの境界線に手をつける。ひんやりとした冷たい感覚が指先からつたわる。
ぼくは目を閉じてきみの手は冷たいはずだと想像する。冷たい雨が落ちてきても、雪がきみの肩に降りつもったとしても、きっときみは傘なんかささないはずだ。
ぼくはそっときみにキスをする。きみの吐息がぼくの頬にかかる。ぼくはぼくの内側が熱くなるのを感じる。
この境界線をこえたらどうなるのだろう。
ぼくがぼくでなくなってしまうのだろうか。
きみを追いかけるということは、そういうことなのだろうか。
大人でも子供でもない思春期
老いてもないけど若くもない中年の中途半端さ