fumi

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9/3/2024, 1:14:35 AM

空は薄暗く、気味悪い黄色に染まっていた
大地には草一本はえず、虫や鳥もおらず、渇ききってひび割れていた
そこに生命と呼べるものは皆無だった
激しい風が絶え間なく地上を蹂躙し、目や鼻、口に不快な砂粒を叩きつけてきた

私はただ立っていることしかできない
砂粒を避けるように両腕で顔を覆い、どこへ向かっているのか、そもそも自分は今どこにいるのかもわからなかった

私は途方に暮れていた
どうしたらよいのかもわからないし、目印と呼べるものはなにもなかった
ただ耐えるしかなかった

前を向く力は残されていない
かろうじて指の隙間から自分の足元がみえる
私はまだ立っている
座り込んで大地に埋もれてしまいたい衝動にかられるが
自分の中の何かがそれを許さなかった

プライド、葛藤、トラウマ…
名前のついていないそれを苦々しく思った
そういうものに自分はすがっていると思った

思考は迷路にはまり、涙も出なくなったとき、なにか奥底にうごめくものが頭をもたげてくる
それは恐怖でもあり、灯火でもある








8/26/2024, 9:00:01 AM

おおきな鏡のまえで、膝をついてたってみた。誰もいない、何もないしんとした部屋の片隅できみを想像する。
目の前にうつる自分の姿は想像上のきみであり、きみの目に映るぼくの姿だ。

ぼくはそっときみとの境界線に手をつける。ひんやりとした冷たい感覚が指先からつたわる。
ぼくは目を閉じてきみの手は冷たいはずだと想像する。冷たい雨が落ちてきても、雪がきみの肩に降りつもったとしても、きっときみは傘なんかささないはずだ。

ぼくはそっときみにキスをする。きみの吐息がぼくの頬にかかる。ぼくはぼくの内側が熱くなるのを感じる。

この境界線をこえたらどうなるのだろう。
ぼくがぼくでなくなってしまうのだろうか。
きみを追いかけるということは、そういうことなのだろうか。


8/25/2024, 9:00:35 AM


大人でも子供でもない思春期 
老いてもないけど若くもない中年の中途半端さ

8/21/2024, 1:11:35 PM

とりのように

たくさんのとりは不吉のアカシ
ひとつのとりはたましいのノリモノ

水面を力強く蹴ると、水しぶきが淡い夢のように飛び散ってゆく

翼の内側の筋肉がこすれて熱くなる
だけども心臓は淡々と同じリズムを打ち続ける

何千年も 何万年も ひたすらに飛び続けてきた体は
太陽に焼かれ 散り散りになり 夕暮れにきえてゆく

とりは最期 なにを思うのだろう

わたしははたして とりのように生きれるのだろうか






8/20/2024, 8:15:57 AM

おかあさま、毎日暑いですね。
先日もお庭で洗濯物を干しましたらすぐにでも乾きそうで私まで干からびてしまうかと思いました。腕から背中からじわりと汗がつたって草の上にしたたり落ちると地面を這っている蟻どもが迷惑そうに塩辛い雫をよけて通ってゆきました。
私が蟻を踏みながらさっさと残りのシーツを干していると、玄関先からトラックの音が聴こえて配達のかたの声がしました。
私が出ていくと大きな大きなダンボールと二人の大きな男の方が立っていました。
「吉川さんのお宅ですよね。お荷物、どこに置けばいいですか?」
身に覚えのない荷物でしたが宛名は確かに「吉川 さくら」とあったので、とりあえず家の中に入れてもらいました。差出人の名前も品名もなく、気味が悪いと思いながらもカッターでダンボールの真ん中を切り開いてみました。そこにはなんとも美しい女性の死体がよこたわっておりました。私はそのあまりの美しさに死体であることも忘れてただただ見入ってしまったのです。
肌の血色は良く、頬は薔薇色に染まり血の色をした唇は今にも動き出しそうでした。私は胸に手を当てたり口元に耳をあてたりしましたが、そこに生命の痕跡を確かめることはできませんでした。
それからどのくらいの時間がたったのか、2〜3分だったのか2〜3時間だったのか、あるいは2〜3日たってしまったのか、私には見当もつきません。しかしそうしているうちに私はある事実に気がつきました。最初は目の錯覚かと思いましたが、よく見るとその死体の顔が私の婚礼写真のときの顔にそっくりなのです。その写真はカメラマンをしている義兄に撮っていただいたものですが、まるで素の自分の顔と似ても似つかない顔に写っておりましたので自分も含めて周りの方も驚かれていたことを覚えています。
私はしばらく考えてからこの死体は来るべくして来たのだと思いました。そうして涙がとめどなく溢れるのを止めませんでした。
その時突然雷がなり、激しい雨が降ってきました。
私は慌てて庭に駆け出し、ずぶ濡れになりながら洗濯物を取り込みました。やっとのことでひと息ついて玄関先をみるとダンボールも死体もあとかたもなく消えていました。
お天気も嘘のように青い空が広がり、じりじりと太陽と蝉たちが暑さを競い合っていました。
お母さま、世の中不思議なこともあるものですね。
私は今日もいつものように洗濯物を干しました。
まだまだ暑い日が続きます。お体にお気をつけて。

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