浜辺に打ち上げられたメッセージ入りの瓶をある女性が拾った。手紙を読んだ女性は何かを言いかけて、キュッと口を結ぶ。そして大事そうに手紙を抱きしめると、女性は肩を震わせ静かに泣いた。
【手紙の行方】
暗い世界、黒の世界に独り
歌の声は次第に細り溶けて消えていった
胸に抱いたお菓子缶に透明の雫がポタリ
静かな海の潮風がふわりと頬を撫でた
無理やり蓋をしてずっと押し込めていた
何度も何度も開けたくなった
きゅうっと痛む心臓を楽にしてあげたい
でも自分で決めたことだから
そう言って蓋の隙間から漏れ出たオレンジ色の光を押し込めた
でもこの愛情はどんどんあふれてあふれて
切なくて苦しくて胸が締め付けられた
何よりも大事だったのに、お互いの優しさで離れた
本当はもう一回を望んでいる
けれどもう忘れられてるか
画面の向こうで見た背中が、あの頃よりも逞しくて
光るオレンジ色をまた閉じ込める
輝きを取り戻したくて、でも突き放したかった
元気?と大好きだよを直接言えたならと繰り返し願う
遠くへ行ってしまったあの子を覚えている
もう簡単に触れ合うことはできない場所にいる
動物園にいる愛おしいあの子のことを
【輝き】
放課後、まだ帰りたくなくて誰もいなくなった教室で一人、机に突っ伏して瞼を閉じる。家に帰っても帰りが遅い私を心配してくれる家族は誰もいない。静かな雨音に耳を澄ましていれば、旧校舎の方から吹奏楽部のチューニングが聴こえてきて、色んな楽器が混じり合った旋律に思わず眉を顰めた。早くこの時間が終わればいいのに、、、
「何してんの?」
すぐ横から聞こえてきた聞き覚えのある低い声に心臓が跳ねた。全く気配がしなかった。冷静を装いたくて体勢はそのままに問いかける。
「…それこっちのセリフ。部活は?」
「雨で中止。体育館も他の部が使ってて空きがなくてさ〜」
天気予報ハズレたね、って言って窓枠に腰掛け、ケラケラと笑う彼はサッカー部に所属している。
普通、部活が出来ないとなれば怒りを感じたり、愚痴るのが殆どかと思うが、この男は自ら進んで部活に入ったわけではないので寧ろ嬉しそうだ。
私はゆっくりと顔を上げ、幼馴染を睨みつける。
「休みになったんなら帰ればいいのに。」
「それこっちのセリフなんだけど?帰宅部でしょ君。」
「別にいいじゃん。それとも何?私は邪魔だからさっさと消えろってこと??」
ため息混じりに見下ろす顔に刺々しく言い返す。
彼は一瞬悲しむ表情を見せたあと、私の背中をそっと優しく擦った。
「いや、具合悪いなら早く帰って休めばいいって意味。偏頭痛なんでしょ?」
「…」
図星すぎて黙る。私は天気が悪いと頭痛が起こる。ズキズキと凄く痛むし、酷いと吐き気もして辛い。
ちょっとした事にすぐイライラしがちで八つ当たりしてしまう。本音じゃないのに。彼がそう思ってないって分かってるのに。
「....いつもごめん」
「気にしてない。薬は?」
「今日に限って切らしてた」
「じゃあ帰りにドラックストア寄って行こうか」
ひょいひょいと二人分の鞄を持って、私の手首を軽く引っ張り立ち上がらせてくれた彼は、私の歩幅に合わせて歩き出した。
(あぁ、優しいな。甘えてしまうな。家に帰りたくないな。時間、止まってほしいな。)