上手く言葉にできないからさ、花を贈るね。
君が好きだって言った花をたくさん入れて花束を作る。
小さくて、けれど凛とした気品あふれる薄紫色。
俺も好きだよ、この色。
「ふふふ、ありがとうございます」
って君が笑うから。君のくしゃっと笑うその顔が見たくて花を贈る。
一年に一度、二人だけの記念日。
「海が見えるところに住もう」
そう言い出したのは君だった。
生まれ育った故郷を飛び出し、異国の土地に降り立つ。どこまでも広がる青い空、ゆっくりと流れる白い雲。僕たちの街とはまるで違う、開放的な空気が頬を撫でる。毎日が新しい発見で、冒険のようだ。
君と二人で生きていくと誓ったあの日から、共に未来を描くためのページを開いた。
明日はどんな物語が紡がれるだろうか。
「何作ってるの!」
「オムライスです」
「やった! お風呂掃除してくるね〜!」
フライパンの弾ける音に釣られて、僕の手元を覗く。恋人ではない、ただの友達。
毎日一緒にご飯を食べ、ひとつ同じ屋根の下で眠る。
世間一般では、友達以上恋人未満と呼ばれる関係だろうか。
この関係に名前をつけることはない。
ケチャップライスに込める想い。
フライパンで炒めて、ただのオムライスになる。
「卵ふわっふわ! 天才!」
君の笑顔が見れるなら。
「うまっ! この唐揚げ最高!」
拳ひとつ分はある唐揚げにかぶりつきながら、
満足そうに君は笑う。
その笑顔に、ついこちらもつられて笑ってしまう。
花見の席で、二人きり。
桜の花がひらりと舞い降りて、君の髪にひとひら、
そっと止まる。
「星が見たい!」
耳が痛くなるような声量に思わず携帯を遠ざける。
「ほし⋯?」
「そう! 流星群! たしか、来週だったはず⋯」
そう言い終わらない内に、携帯をタップする音が静かな部屋に響き渡る。
「あ、やっぱり来週だ! 金曜の夜!」
「金曜か⋯」
「見に行こうよ!」
君の誘いを断る理由なんて、あるわけがないのに。
「楽しみだね」